醜悪に造形された我が輪郭よ
言葉に出来ない想いは、心無い人なのだという誤解を産み出す。
それすらも言い訳でしかないことを理解していながら、それでも言い訳の言葉さえ紡ぎ出すのは酷く億劫で。
初めに望んだのは、細い繋がりを辿って会いに来てくれた貴方だった。扉を閉ざしがちな私に、貴方は優しくノックをしてくれた。
まだ私が卵の殻から漸く出てきた程の、まだ何の軌跡も無く右往左往していただけの頃。一方的な押し付けと突然のさよならを言い渡されたことがあり、それからというもの、仮面を被った久しぶりの誰かを、たくさんの網目の中の一つでしかない私の個人空間に招き入れることがとても怖かった。
貴方からの扉の隙間を通して渡される手紙。恐る恐る読んだその内容は、とても好意的な文章でしかないのに。それすらも、自分の魅力とは釣り合わないと、何か他の意図があるのではと穿った考えを持つ原因にしかならなかった。
それからも、素っ気ない私に貴方は諦めずに言葉をかけてくれた。相変わらず私は懐疑心の塊で。沢山の想いとは裏腹に、指先から送られるのはまるで上部だけの薄い言葉のよう。きっといつかこんな私に愛想を尽かし離れていくだろう、と思っていた。
それについて、私は今まで引き留めるようなことはしたことがなかった。以前の経験から、結局膜のような人と人との繋がりは苦痛でしかなく、心の離れた相手と糸を紡いでいくのは無意味なことでしかないと学んでいたからだ。
季節が巡るほどの期間における貴方との手紙のやり取りの末、終に私の懐疑心が綻んで、ようやく貴方との繋がりを嬉しく思えるようになった。それでも、貴方の思いと私の思いが少し違うことも理解しつつ、それがお互いのためにはならないと言葉と思いを押さえて、貴方に合わせようと心を高めて接していた。
どちらが多数派かなんて、それは問題になることはなく、どうすればより良い関係が築けるかを一点に考えてきたからだ。
そして、結局貴方から届いたのは、突然の関係の白紙化と、謝罪の言葉から滲み出る過大な自己肯定的ともとれる再構築の申し出であった。
ああ、と。
以前と同じ、腹の底から沸き上がる不快感。胸の奥から湧き出る不信感と憤り。自分勝手なこの言い分が、この世界の常識なのかと悪心がする。
破棄される関係性ならば、初めから無ければいいものを。信じていたその強さの分だけ、私に与えられる絶望と諦念。
何度繰り返しても治まらない感情。
筆を執ろうと指先は動くが、それを投函することは出来なかった。保身と怒りが渦巻く私の中で、自分だけ悪者になる状況と勝手な言葉への鬱積、それでもこれ以上関わる事への煩わしさが覆い重なっていく。
そして、結局、もういいと。
所詮その程度の関係でしかなかったのだと、僅かに開いていた扉を閉めることしかしなかった。
臆病で流れに任せるしか能がない私自身に、本当に嘆息するしかない。そうと解っていても、これ以上動くことはしたくなかった。
繋がりを求めても束縛されることを厭い、自分勝手なのはきっと誰もがそう思い合っていて。自分と違う考えを持つことが勝手と捉えるなら、私達は妥協点を見出だすことでしか関われないのだろう。対等な関係でありたいから自然とそうなることを望んだのに、泣き言で妥協を通そうとする貴方が酷く醜く感じられてしまった。
さよならさえ言わないまま、此の関係は終わりを迎える。
それは、この世界では日常的なのだと自分を誤魔化して、私はそんな日常をこれからも紡いでいくのだろう。
せめて、最期は有り難うと言えるような関係でありたかった。
(忘れてと言ったその唇で寂しいと呟くのは
あまりにも傲慢すぎると思わない?)
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