盲目機械の使命、又は偏見

 なればこそ、私がその縁を断たんとしたのだ。
 彼がその心故、成されば他が為に成らぬと云えばこそ。其れが、私と彼が為に成ると云えども、彼の耳には正しき意味で伝わることは無く。

 彼は、清廉。
 力を悪とし、祈りを善とする、世に言う正しき人であった。何事も自らの損得を数えず、他の幸福のみに損得を数える。彼の軆が傷付いて尚、其れこそが他が為に成りし証なのだ、とその意思を揺るがさない。
 初めは掠り傷程度であった彼の瑕疵は、癒える前に抉られ続け、今と成っては治る見込みは無い。其れが膿を孕み、熟熟と熟れても、痛みと共に与えられる呪いとも言える感謝の旋律に彼は麻痺していた。
 誰かの為に成るのなら。
 其れが、彼の行動の全ての理由であり、何時か彼の存在の全てに成ってしまうかもしれない、恐ろしい思考。
 何度彼にその恐ろしさを説うたか。自らを犠牲にして得られるものに、如何程の価値も有りはしないのだと。自身が幸せであるからこそ、他の幸せを願えるものなのだ、と。
 前提が成されていない彼の幸せを、私は何度も正そうとしたが、一途な彼の思考を変えることは、終にぞ叶わぬ夢と成った。

 彼の傍には、其の呪いを吐き続ける悪が常に存在した。追い払っても尚、新しく名を変え形を変え、様々な方法と廻り合わせで産まれるのだ。
 私は、彼が其の悪との関わりを絶たんと欲した。彼の幸せを願えばこそ、未来を見据えればこその希望であった。

 彼が絶てぬと言うのならば。

 何時しか思考は光を失い、全ての定義をも捨ててさえ叶える事に埋没する。
 其れは彼という存在を盾にした、卑怯な行為。彼を救う為と謳い、自らの欲を満たす為の手段。

 一言で云うならば、『排除』であった。

 他が為に生き何時か失うのなら、其の他との縁を絶てば良いのだと私は理解する。
 その排除を務め、彼をも又失うことに成る事に気付いていながら止められない衝動が私を動かしていく。
 泣く彼を見て、私を責める彼を見て、他が為に涙を流し其の心を砕く彼を見て、私は漸く自らこそが彼の最大の呪いであったことを知るのだ。
 彼が自らを壊しながらも手を伸ばしたいと思う輩の、私は一人に過ぎなかった。


 その時、最期に私が排除すべき物を理解する。
 彼に縋っているのは、紛れもなく私と云う名の輩も含まれているのだ。ならば、其れとの縁も絶たねば。


 願わくば、彼が自らの為に生き、自らの為に死ねる事を。
 私自らの全てと引き換えにして。


(其れすらも、
自らの為でしか無い事から
眼をらして)


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