囚われの戯言
「ねぇ、私たち卒業しませんか?」
「卒業?」
「ええ、お互いからの」
いきなりの提案だったけれども、それはいつか来るだろう必然だったように思えた。
卒業。
確かに其れは必要なのかもしれなかった
僕らは出会い、そして惹かれ合った。それはまるで運命のように違える事なく回るものであるかのように。
共にあることが普通であり、そうでないことが異常であった。
君……トワと出会った事は、何にも変えがたい事だった。
「僕の事が要らなくなったのかい?」
決してそうではないのだと分かっていながら、そうではないのだと言ってほしいから聞く。
もちろんトワは、そんな事などお見通しなわけで、クスクスと笑いながら僕が望む言葉をくれた。
「私はセツナを誰よりも必要としていますわ」
「でも、それだけではいけない事が解ってしまいました」
「それだけでありたいという私の願いも、現実という舞台の中ではとても儚く、そして愚かなモノにしかならないという事も」
それを知ってしまったのだ、とトワは言う。
なるほど。
トワは気付かなければそれでも構わない事に気付いてしまい、また考えなくても構わない事を考えてしまったのだ。
斯く言う僕自身は、既にトワの言う愚かなモノに気付いていた。
でも、僕は其れをトワに話すことも、また自身で悩むという行為も、全てを投げ捨てたのだ。
「考えなければ良かったのにね」
ぽろりと口端から漏れた本音は、トワを苦笑させる。それが、僕が気付いていながらも告げなかった事を、彼女が知っているという証拠だった。
その苦笑が、彼女の僕に対する肯定なのか侮蔑なのかは分からない。
「ちょうど、季節は春。 区切りを付けるのには良いと思います」
「春は始まりというしね、僕と君の終わりの始まりだ」
今度は君は、僕の言葉に笑顔で頷いた。
そして、僕らはお互いから卒業した。
今、語れるなら、其れも全てが逃げだったのだろう。僕も彼女も、これから二人に訪れる大きな障害に立ち向かうだけの力も勇気も無かった。
二人でなら頑張れる、だなんて無責任な言葉を吐けるほどの勇気も、トワを守り続ける決意を抱き続ける信念も、また、お互いがお互いだけのモノであり続ける約束も、僕達には出来なかったのだ。
其れは、弱さであり、また学びであった。
其れを分からなかった頃の僕達は、とても強く、また幼かったのだから。
ともあれ、僕達はそれぞれに違う道を歩みはじめる。
何時か、何処かで交わればいい、と淡い期待を胸に抱きながら、僕達は生きていく。
もし、交われたならば、運命が定めた其れに従って、僕達はまた愚かで幼くて、何よりも強い絆を育みながら生きていけるのだろうか。
(甘い痛みで壊してほしい
私はどこか狂っています)
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