ディオスコロイ計画 小説 | ナノ
結語
男(ナギ)は、七日七晩、一睡もする事無く時空を廻った。
その間にも、幾度となく黄泉の世界を探したが、其れが見つかる事は無く。
やはり、双子の力が必要なのだと再確認する事になるだけだった。
―ああ、力を。
―より私と彼女を引き合わせる力を。
男(ナギ)は切望する。
そして、その飢えを更なる力変え、時空を渡り双子を探し続けた。
一日目は、鬼と人と、空が争う世界へ。
そこでは、黒と白の双子を手に入れた。
二日目は、平和で、緩やかな時間が流れる世界へ。
そこでは、内と外の双子を手に入れた。
三日目は、翼を有する者たちの世界へ。
そこでは、兄と弟の双子を手に入れた。
四日目は、煌びやかで、また廃墟を抱く世界へ。
そこでは、彼方と此方の双子を手に入れた。
五日目は、社会という閉塞感に塗れた世界へ。
そこでは、裏と表の双子を手に入れた。
六日目は、善悪に悩まされる世界へ。
そこでは、正と負の双子を手に入れた。
七日目は、歪んだ科学が発達した世界へ。
そこでは、右と左の双子を手に入れた。
其れらの全てが、ただの双子ではなく、さまざまな可能性と感情、絆が絡み合った双子。
男(ナギ)を黄泉の国へと導く鍵を有する者たち。
男(ナギ)は其れらを、時空の旅の果てに遂に手に入れたのだ。
其れから、男(ナギ)が初めに行ったことは、絆の抽出だった。
男(ナギ)にとって大事なのは、双子の魂でも心でもない。
其れらが、お互いの片割れを引き合う強い絆にだけであった。
むしろ、魂も心も、それら他の全てが純粋な絆への邪魔となる。
より、黄泉の国に近づくために。
双子の魂はそれぞれ砕かれてゆく。
お互いを求める、その絆だけを残して。
双子の魂はそれぞれ求めてゆく。
ただ最後に残った、絆だけを頼りにして。
その思いは、男(ナギ)に力と道筋を与えた。
―ああ、ついに。 ついに、彼女に会えるのだ。
それだけが、男(ナギ)の頭を満たしていく。
それに比例するように、男(ナギ)と女(ナミ)の距離は近づいて行った。
そしてついに、男(ナギ)は黄泉の国の扉へと至る。
この扉を開ければ、男(ナギ)は女(ナミ)に会うことができるのだ。
七日。
これだけを聞いたのならば、たった七日でしかない。
しかし、一度たりとも離れたこともなく、また離れることのないと信じていた男(ナギ)からすると、七日は永遠と同じ定義であった。
永遠を越え、男(ナギ)の時間は動き始める。
男(ナギ)は扉に手をかける。
それからの男(ナギ)の行方を知る者はいない。
男(ナギ)は女(ナミ)に会えたのかも定かではない。
残されたのは、絆を失った双子たちの抜け殻と、それを成す機械。
ただ、男(ナギ)の部屋は荒れ果て、まるで何かから逃れようとしたかのように散乱していた。
女(ナミ)は還ってきたのだろうか。
還ってきたとして、女(ナミ)は以前と同じ女(ナミ)だったのだろうか。
自然は謂う。
否である、と。
死して後、その魂が蘇ったとしても、それは『生き返る』ことに能わず。
死ぬ事で失った命は、黄泉の国へと旅立った時点で変質し、元に戻ることはできないのだ。
生と死は、それほどまでに絶対的な隔たりが定められており、例え双子の強力な絆の力を以てそれを見つけることは出来たとしても、超えることは決して出来ないのだ。
盲目的に女(ナミ)を追い続け、追い求めた男(ナギ)には、それを理解することはできなかった。
理解したとしても、信じることが出来なかっただろう。
結局は、どうしようもないこと。
犠牲となったのは、何の罪もなく、また結果もなかった双子たち。
また、歪んだ思いにとらわれ、禁忌を犯してしまった、男(ナギ)自身。
得たものはなく、ただ、自然の力にあがらう者への裁きが下されたのみ。
今は、また後の世界においても、男(ナギ)の消失を知ることなく。
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