ディオスコロイ計画 小説 | ナノ
漆
しかし、時間は無常にも流れ続け、短い昼休みが終わりを告げようとしていた。
校庭から聞こえていた子ども達の遊び声に変わって、もうすぐ昼休みが終わるという予鈴が校内に鳴り響く。
子ども達はそれとともに徐々に校内に入っていき、今まで賑やかだった校庭は静けさを取り戻していく。
私たちの双りきりの時間もまた、昼休みとともに終わりを迎える。
再び、私たちに目を付けた担任と、何も知らない同級生の中に入っていかなくてはならないのだ。
教室は同じであれ、席は二列分も離れている。
とても苦しい、そして辛い時間が始まるのだ。
其れを思えば、腰をあげるのも重く、扉へ向かう足取りもまた遅い。
それでも行かなくてはならないのだ。
扉に手を掛ける前に、確認するかのように私たちは向かい合う。
そして、強く強く抱き締め合った。
これからもずっと、双りは決して離れることなう生きていくのだと。
双りがお互いの存在を確認していた頃。
青い空に生まれた時空の亀裂。小さなそれは次第に勢力を増し、巨大な穴となる。
中から現われたのは、男(ナギ)。
男(ナギ)の狙いはただ一つ。強い絆で紡がれた双子の魂。ならば今、この世界に来た理由は言わずとも分かる。
『みつけた』
『わたしのねがいをかなえるためにひつようなもの』
屋上には誰もいない。
初めから屋上は立入禁止にされており、生徒はおろか、教師ですら特別な用が無いのなら入る事は許されていない。
屋上には、誰もいない。
しかし、何故だろうか。誰も入ることのできない空間であるはずなのに、不自然にまがった二本のヘアピンが、屋上の真ん中に転がっていた。
屋上の校舎側の鍵穴は、何かで抉じ開けたような傷が数本見受けられる。
しかし、屋上はいつもと変わらない静寂が広がっており、誰一人としてその場にいる者はいなかった。
教室ではいつものように授業が始められている。
教壇に立つ教師の問い掛けに子どもたちが手を挙げて答えを発する。
屋上に落とされたヘアピンに気付くものは、いない。
今はまだ、誰も知ることなく。
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