ディオスコロイ計画 小説 | ナノ
捌
お互いがお互いを会えない間も想いあっていた。
白銀の少年に至っては相手の存在すら認識していなかったにも拘らず、それでもなお心の中にある違和感を感じ、それを埋める何かを捜し求めていたのだ。
お互いが、お互いに会えたら、その魂を感じたいと願い続けた。
一体どういう声をしていて、どんな風に話すのだろうか。
お互いの存在を確信した今、彼らはまた確信する。
自分達はやはり、双りで一人だったのだ、と。
そして、気付く。
自分たちは、双りでようやく完全な人間に慣れるのだ、と。
白銀の少年が、暗い階段を駆け上がる。僅かな時間すらも惜しいかのように。
その足音が次第に漆黒の少年の耳へと届く。初めは遥か下の方でそれが響く程度。
しかし、確実に上がってくるそれと共に、漆黒の少年の心もまた舞い上がってくるのが少年自身にも感じられた。
ああ、もう少し。
あの古ぼけた木の扉の先に、ずっと会いたかった彼が待っているのだ。
白銀の少年は、その木の扉に手を掛けた。
双りがまさにもうすぐ相対するであろう頃。
塔の暗やみに生まれた時空の亀裂。小さなそれは次第に勢力を増し、巨大な穴となる。
中から現われたのは、男(ナギ)。
男(ナギ)の狙いはただ一つ。強い絆で紡がれた双子の魂。ならば今、この世界に来た理由は言わずとも分かる。
『みつけた』
『わたしのねがいをかなえるためにひつようなもの』
塔には誰もいない。
その塔に作られた唯一の部屋には、大量の本が置かれていた。ベッドや机もあり、まるで誰かがずっと住んでいたようだった。
塔には誰もいない。
扉の鍵は壊されて間もないように感じられ、近くには錆がこびり付いた石が転がっていた。
階段には壁の隙間から、薄ら日が射し込んでいる。
薄暗いその空間はただ静かに、訪問者の気配を打ち消していた。
塔の外には一匹の犬。
誰もいないその塔から離れようとはしなかった。
犬はただ、静かに佇んでいる。
まるで、塔の中にいる誰かを待っているのかのように。
塔から離れた家の者に、其の異変に気付くものは、いない。
今はまだ、誰も知ることなく。
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