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分からないからこそ、其れは要らない物にしかならない。
知っているからこそ、其れは要る物になるかもしれない。
そうやって私達は、取捨を無意識に選択しているのだ。 都市ユニコット。
通称『独裁都市』。
その通称の通り、ユニコットは領主の独裁で治められている都市である。
都市ユニコットの領主の名は、フェルマータ。歳は29と、領主としては破格の若さを誇る。
ユニコット前領主の22人いる奥方から生まれた54人の子どもの長子であり、現在都市ユニコットにおける全ての権力を持っている者である。
フェルマータの性格は残忍で狡猾。53人のきょうだいの内、領主の継承権があった弟26人を、年齢、血の繋がる繋がらないに拘らず一人残らず暗殺した。
殺された子ども達の中には、まだ5歳にも満たないような幼い者もいたという。
当時の領主であったフェルマータの父親は、フェルマータの残虐な行いに心を病み、彼が表舞台に立つとほどなくして床に臥せてしまった。
何故フェルマータは、あのような残虐な行為を平気で行えるのか、ひいては自らの教育が悪かったのではないだろうか。いずれにせよ、自らもまた領主の座を狙っているフェルマータに命を奪われてしまうのだろう。
フェルマータの行為の矛先が自らに向いてしまうのではないかと、前領主は恐怖におののきいた。それからというもの、以前までは精力的に取り組んでいた政治にも全く手を付けられなくなってしまう。
毎日自室に閉じこもり、信頼のおける部下以外を近付けさせようとしなくなった。
どうしてフェルマータがそんな残忍で凶悪な人物になってしまったのか、誰にもわからない。それが、生まれ持った彼の性質であったのかもしれないし、生育される過程で培われていったのかもしれない。
だが、誰にもそれを知ることは出来なかった。
そして、父親が引きこもるになってしまったのを良いことに、政治をしなくなった(出来なくなったというほうが正しいのだろうか)父親から領主の地位を剥奪、城の奥にある部屋に軟禁し、その後、フェルマータが領主となることへの反対意見と其れを論ずる者たちを全て駆逐し、自らを領主へと据えた。
また父親の代から続いていた議会を解散させ、裏から手を回して自身の息がかかった者を多数潜り込ませる事に成功。議会を意のままに操るようになった。
その頃、フェルマータは26歳。彼自身も28人の妻を娶っているが、彼は生まれた自分の子どもにすら容赦はしなかった。男子ならすぐに処刑、または監禁し、少しでも疑わしい行為を行ったものは母子共々例外なく処断した。
そんなフェルマータを改心させる事が出来る者は誰一人となく、良心ある者は皆口を出したが故に処罰され、ほとんど全ての権力者はフェルマータのおこぼれに与ろうと、あの手この手で彼に取り入ろうとする。そんな彼らを、フェルマータは時に分け前を与え、時に気に入らないと折檻した。
またフェルマータは良くも悪くも、人の上に立とうとするくらいの、そして実際に立つことが出来るほどカリスマをも持ち合わせていた。
代々永く続いていたフェルマータの家系もあり、彼が持つ血統、育ちの良さは紛れもなく本物だった。
また端正な顔立ちをしており、其れが彼の残虐さと合わさると誰しもが圧倒されてしまう雰囲気を放つのだ。それがまた、彼の存在感を増長させているのだった。
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