22
コンコンコン、ノックが叩かれる。フェルマータは嬉しそうに笑いながら、入室を許可した。
カルムは目を見開いた。バスはまだ帰ってこないはずだった。出都届に書いた日付を遥かに早回る帰還だ、あるはずがない。
バスはいつも、出都期間の日付を長く書くのだ。そして、その空いた時間にふらふらと何処かに行っている。遅れる事はないが、早く帰ってくることも決してなかった。
しかし、前の扉から入ってきたのは、確かに長年共に働いてきたバスであった。
「……途中、申し訳ありません。ただいま帰都しましたところ、部下より主城からの呼び出しがあったと聞き、参上致しました」
入ってきたバスを見て、フェルマータは嬉しそうに手招きをして言う。
「おお、待っていたぞ、バス。 やはりメストの耳に違いはないなぁ。 お前の忠誠にも違いはない」
フェルマータは、はははと声をあげて笑う。そして呆然とバスを見つめていたカルムに向き直ると、事も無げに言い放った。
「もう、下がれ。これからは我とバスの話だ」
カルムがはっと、フェルマータを見る。
「しかし……!」
「……下がれ、と言っているのだがなぁ」
すっと、フェルマータの目が細められる。ただ見られているだけのはずが、この威圧感。カルムは額からつっと汗が流れるのを感じた。
「……カルム。 ここからは俺が承る。 お前はギルドに戻れ」
バスにそう言われ、カルムは悔しそうに席を立つと、一礼しその場を去った。
カルムは、バスだけをあの場に残し置くのが耐えがたかったのだろう。心配そうな表情で、扉を閉めていった。
「あ、そうだ」
思い出したようにフェルマータはメストを呼び寄せると、数回何かを耳打ちした。その声は小さすぎて、バスには残念ながら聞き取れなかった。
「……はい、承りました。そのように」
メストは小さく言うと、カルムが出ていった扉から同じように出ていった。
フェルマータはそんなメストを見送る。扉が閉まると、ゆるりとバスを見た。
「……」
無言のバスに、フェルマータは満面の笑みで迎えた。
「おかえり、バス」
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