21
「待たせたな、カルム」
人をくったような笑みを張りつけ、堂々とカルムに向かって歩いてくる。
カルムは席から立ち上がると、すぐさま膝を折り頭を下げた。
一時間以上待たせたとは思えないほどの軽さで、フェルマータはカルムに相対した。
しかしその視線と風格は、まさしく上に立つ者の持つそれで。ギルド長として長年務めてきたカルムですらも飲み込もうとする強くまがまがしい気配。
カルムは、良くも悪くもフェルマータが長としての資質を持ち合わせているのだという事を身をもって感じさせられた。
「……いえ、主に置かれては会議など政にもお忙しい身。 これくらいなんともございません」
膝を折り頭を下げたまま、カルムは応えた。
「そうか、そうだな。 いや何、最近また市民どもが騒ぎ始めておるのでな、どういった粛清にしようかと思いの外盛り上がってしまった」
そういうと、フェルマータは、にやにやと笑った。
市民を虐殺する法を考えるために。
きっと会議ではフェルマータを楽しませるために、屑どもが残虐な案を出し合っているのだろう。
そんなもののために。
「……」
カルムは、沸き上がる怒りをぐっと堪える。
「まぁ、この話はさておき」
フェルマータが肩にかけていた羽織をメストに投げる。メストはそれをしっかり抱きかかえ、フェルマータの一歩後ろに跪き控えた。
フェルマータは、先ほどまでカルムが座っていた椅子の前にある椅子にどかりを座る。そして、カルムにも座るように促した。カルムは一言断りを入れ、再び先ほどまで無意味に温めていた椅子に座った。
フェルマータは、両肘を机に乗せ、手を顎の下で組む。そのまま、カルムを見上げるようにして笑いながら言った。
「バスを、と我は言ったのだがな。何故カルムが来たのだろうなぁ」
カルムは一度頭を下げ、フェルマータの目をしっかり見つめながら、バスが来られない理由を伝えた。
「はっ……、バスはただいま仕事で出都しております。 バス不在の中、せめてご用件だけでも伺いたく思い、私が登城致しました」
それを聞くとフェルマータは、ああ、と思い出したように声を出した。
「あー、そういや、バスの出都届があったような気がするなぁ。 せっかく仕事を頼もうと思ったのだがなぁ」
そっかー、とどこか子どものような仕草で椅子にもたれかかる。さて、どう出てくるのか、とカルムが体を硬くしたときだった。
「……バス」
小さな声で、そうメストが言った。フェルマータはにやりと笑う。カルムはまさか、と頭を上げ扉のほうを見た。
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