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腕利きの仕事師がいるとどこかから聞きつけたらしいフェルマータが、是非とも会いたいとギルドに数人の兵士をよこしたのだ。
一応フェルマータの許可を得て出都をしているのだ、その呼び出しが都市民に断れるわけがない。それはバスもよくわかっていた。だからこそフェルマータの招致にも応じたのだ。
たとえ、妹が殺された間接的原因を生んだ奴だとしても。
フェルマータは、丁寧な物言いと雰囲気のバスに対して大変好感を持ったらしく、何か仕事(主に暗殺が多かったが)があったときは、必ずと言っていいほどバスを指名した。
そのおかげで、ギルドの名は一気に高まり、『レクイエム』はユニコット一のギルドへと急成長を遂げた。そして、バスの名もユニコットに広まり、彼に楯突く者はフェルマータに楯突く者だ、とまで言われるようになったのだ。
そんな状況に、ますますバスは苦しんでいた。
何も知らないギルド構成員は、ただただ名の上がった事に酔い痴れていたが、バスに近いもの達は、彼の苦しみに気付いていた。
そんな時、ぽつりとカルムに盛らしたのだ。
騒がしい酒場の中、其れを聞き取れたのは、傍にいた少年だけだった。
妹の仇のおかげで高まった名など、一体何の意味があるのだろうか、と。
そうは思ってもバスもカルムも、ギルドの存続と自身の私怨の間で揺れることなど許されなかった。
少年は開いたままになっているドアを見つめ、静かにこうべを垂れた。
どうか、これ以上バスが苦しむことのないように、と。
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