空を見上げて 本章 | ナノ



18


 ギルドに所属する者は、やはり何かしらの事情を抱えているものが多い。それを公にする者もいれば、隠し通す者もいた。
 バスは典型的な後者の例であった。

 そんなバスが数か月前にたった1人の妹を亡くしたことを、ギルド内で知らないものは多かった。と言うより、バスに妹がいたということすら知らないものが多い。
 その事実を知る者は、ギルド『レクイエム』に古くから所属するもの、またはバスに近しい者に限られている。少年は古くからの所属ではないが、ギルド長カルムの側近であるため、その事実を漏れ聞いていた。

 彼の妹への愛情は、年齢が離れていたためか兄弟の域を超え、まるで我が子のように守り慈しんでいたという。
 ある者はそんなバスを、妹に縋る弱虫だとなじったが、バスの仕事に対する姿勢を見た者はそんな言葉を吐くことは出来なかった。

 異常なまでに非情に。
 徹底した仕事の完結ぶりに。

 一切の隙を見せず、一切の情も出さない。
 そんな彼が唯一安らげる存在が、その妹が待っている場所だったのだから。

 だからこそ、妹を失った時のバスを見ていられなかった。
 一度だけ顔をみせたバスはひどく疲弊しており、ただ一言、妹が死んだ事実をカルムら幹部に伝えた。バスのあまりの憔悴ぶりに、何も言えないでいる彼らを残してバスは静かにギルドを去った。
 それからしばらくギルドにも来なくなり、言葉にこそ出来なかったが、もうバスは妹共に死んだのではないか、という思いが幹部内でじわりと生まれた。何も知らないギルド構成員ですら、幹部の異常な雰囲気と全く来なくなったバスに不安を抱き始めていた。

 何とかバスと連絡を取ろうと幹部たちは試みたが、秘密主義だったバスだ、ギルド長のカルムでさえ彼の住所を知らなかったのだ。バスに会いたくても、会えない日々が続いた。

 しかし、それから突然ギルドにバスは顔を出した。その時のバスは、少し痩せてはいたが以前のような悲壮感はなく、どこか救われたような顔をしていた。
 あぁ、乗り越えたのだな、とその場にいた誰もが口には出さなかったが思っただろう。カルムに至っては泣き出しそうな表情をしていたほどだ。

 しばらくは、バスも以前と少しは違うとしても劣らない仕事をこなし続けた。妹が亡くなってからその精度はますます上昇し、鋭くなっていた。
 悪いことではないし、バスが辛そうではなかったので、カルムはそれについて言及することはしなかった。幹部たちも、以前のように振る舞うバスに安心し、やっと前のバスが戻ってきたのだな、とひそかに喜んでいた。

 

 そんなバスに会いたいと、主城からの使いが来るまでは。


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