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そして、道の先に見えたそれは、ユニコットの入り口。固く閉ざされた頑丈そうな石門を、槍を持った門兵が数人がかりで囲みこみ、その門の塀ははぐるりと都市の周囲に張り巡らされているようだった。
高い都市壁の上には鋭利な槍柵らしき物が見える。メゾがそれをじっと見ていると、あれには毒が塗り込まれている、とバスが小さく耳打ちした。
壁の所々には四角に穴が開いており、そこからは鋭い目をした弓兵が、こちらを睨み付けていた。
さて、どうしたものか、とメゾとテノールは立ち止まると、バスが少し待っているように二人には指示し、バスは門兵の元に一人、近づいていった。
「俺は、都市民番号10412号、都市民名バス。 ギルド『レクイエム』の者だ。 同行者二名を含む三名、ユニコットへの入門を願う」
バスが門兵にそう言うと、門兵ははっと佇まいを直し、バスに向かって敬礼をする。
「『レクイエム』のバス様でいらっしゃいますか。 すぐに門をお開けしますので、暫くお待ち下さいませ」
ハキハキとした言葉は、少し離れたメゾとテノールの耳にも入ってくる。
テノールはすすっとメゾに近付いた。
「バスって、ユニコットじゃあ偉い奴なのかな」
まさか、といった感じでテノールが耳打ちする。
「どうやら、そのようだな。 簡単には出られない都市から出ることができ、名前だけでまた、入ることが出来るのだ。 何かしら権力を持っているのだろうな」
「それって……」
二人がこそこそ話し合っている間に、バスは門兵との話を終えてしまったようで、二人を門まで呼び寄せた。
メゾとテノールは、バスに呼ばれるまま門に近付いていくと、バスが何か金属で出来た腕飾りを差し出してきた。
「それは……?」
「これは、一時入門の許可証みたいなものだ。 ユニコットにいる間は腕に巻いといて貰いたい。 あと、二人は一時入門だから、暫くしたら出門しなくてはならない。 ……まぁ、この都市に長くいる必要もないからな」
「そうか……、ありがとう」
メゾはそう言うと、バスからその腕飾りを受け取り、自分の右腕気に括り付けた。青い石が一つはめ込まれており、その横にはバスの名前も刻まれていた。
「バスの名が……」
「え、本当だ」
腕輪を見てつぶやくメゾに、テノールも自分の腕輪にバスの名前が刻まれていることに気付いた。
「困ったことがあれば、この腕飾りを見せればいい。 大抵のことならば、なんとかなるはずだ」
メゾとテノールは顔を見合わせた。
「俺は一度、ギルドに顔を出す。 ……せっかく2人がこんなとこまで来てくれたんだ、ちゃんと話をするさ」
「あぁ、きちんと話をしてきてほしい。 その上で、私と共に来るかどうかを決めてくれ」
メゾはバスの目をしっかりと見て、言った。少し間をあけ、バスもその目を見つめ返すと、一つ頷きを返した。
ギルドへ向かおうとしたバスが、最後に、と言う。
「陽の当たるうちなら表通りを好きに歩けばいい。 この都市がどんな場所か知るためにも。 だが、一つ約束してくれ。 絶対に裏通りには行かないでほしい」
「……裏通り?」
テノールが聞き返す。バスがあぁ、と言った。
「この大通りから外れないでもらいたい。 さすがに二人だけで裏通りに行くのは危ないからな。 もし行きたいのなら、俺がギルドから帰ったら案内するから」
「……なんか拙たち子ども扱いされてるみたいだな」
「……」
テノールがむっ、とした顔をすると、メゾは何とも言い難い表情をした。
バスは、薄く笑うと、ギルドへと向かった。
「……行ったな」
「あぁ、行った」
テノールはメゾの右手を握る。メゾは、ん?と繋がれた右手と、嬉しそうなテノールの表情を見比べた。
テノールは幸せそうな表情で、その繋がれた手を引いて歩きだす。
「テノール?」
「メゾ、せっかくだし大通りを散策しようよ。 拙、メゾとこうやって二人で歩くの初めてだから、嬉しいな!」
にこにこ笑うテノールに、メゾは首を傾げる。
「何故、私と?」
「だって拙、メゾが大好きだから!」
満面の笑みを向けるテノールに、メゾは少し戸惑う。
こんなにストレートに好意を向けられたことが、メゾにはないのだ。
「……よく、わからないな」
「ゆっくりわかっていけばいいよ。 この世界のことも、拙の気持ちもね」
にこやかな顔を崩さず、テノールは戸惑うメゾにそう言った。
メゾは暫く考え込むような仕草を見せると、テノールの目を見てゆっくりと頷いた。
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