空を見上げて 本章 | ナノ



14


 ……ん?
 私が今まで人と会話をした事があるか、か?
 ああ、私が話せるのが不思議なのか。
 私には空がいたからな。 ……あぁ、空が色んなことを教えてくれた。言葉や詩、色。私が知りたいと思ったことや、空が私に知っていてほしいことは全て学んできた。おかげで、私が解せない言葉はない。

 ……世界について?
 少しだけなら空から聞いたことがある。正直、外に出られるとは思っていなかったから、地理的な事は興味がなかったのだ。
 ……テノールが教えてくれるのか?
 そうだな、これから必要になる知識だと思うし、出来たら聞いておきたい。


 ……なるほど、4つの大陸に4つの大国。
 少し気になったのだが、王族の名前が耳に慣れないものが多く感じた。何かわけがあるのだろうか。
 ……始まりの人、か。
 その話、以前空から聞いたことがある。彼が言うのだから、きっとその話は真実なのだろう。

 しかし、テノールは地理にとても詳しいのだな。
 ……ほぅ、学校ではそういう事も学ぶのか。テノールは意外に勉学には真面目だったのだな。
 ちなみに、このミュングにはいくつ都市があるんだ?
 ……大きな地方権力は、危険要素も孕むから4つに決められてる、か。なるほど、東西南北に配置する事で万が一外敵から中央を守れるし、近くに配置せず、力の連結をも防いでいるのか。利口なやり方だ。

 ん?
 始まりの人について知りたいのか?
 ……まぁ、いろいろと教えてくれたことだし、私も知っていることを話そう。


 初めに闇があった。闇は、自身が闇であることも一人きりの膨大な存在であることも知らなかった。そのまま数えきれない程の年月を経た時、闇の中に一点だけ無が現われた。
 闇にとって其れは初めての他であり、また初めて自身が何者かを考えさせる切っ掛けになった。
 無だと思われていた其れは、光だった。闇を打ち消す其れを、闇は無だと思っていたのだ。やがて光は周りの闇を飲み込み、その瞬きを大きくしていった。
 闇は恐れた。初めての他は、初めての恐怖の対象になった。
 それから、お互いが生き残るために闇は光を打ち消し光は闇を飲み込み続けた。やがて、其れすらも出来なくなったとき、どちらとともなく思った。

 このままでは、どちらも失われてしまう、と。
 闇と光は約束を造り上げた。世界を半分ずつに分けて支配しようと。
 そうして、世界に朝と夜が生まれたのだ。太陽は光の使いであり、月は闇の僕で、それぞれの支配に合わせて世界を見張る事になった。
 光は、真っ白な世界に淋しさを覚え、一粒の涙を流すと、それは世界を満たす海となった。闇は真っ暗な世界に寂しさを感じ、漏れだした言葉は、海の中に大陸となって現われた。

 そして、彼は生まれた。初めての生命体。全ての原点。
 そうとしか聞いていない。どのようにだとか、どうしてだとかは知らない。
 もしかしたらそんな理由なんてなかったのかもしれないな。
 彼を初めとして、同じように彼ら(人間)が生まれ、また其れら(動物)が生まれた。
 その後にジパングと呼ばれる事になる島に、初めての国が出来たのだ。
 彼らは初め、全てを愛する事が出来たという。物理的にも心理的にも。
 しかし、あらがえない時の流れと思考の波に、何時しか彼らは巻き込まれていった。
 人は誰でも、より良いものを望むものだ。ジパングは小さな島であったため、野心を持つ者同士が出会うと瞬く間にその領土を焦がした。
 やがてそんなジパングから、4人がそれぞれの愛する者とともに旅立った。彼らはそれぞれにたどり着いた大陸で、己の考えのもとに国を造り上げたという。
 一方で彼は、ジパングに留まり続けた。去っていく彼らを見送り続けた彼は、どんな気持ちだったのかはわからない。

 ……その彼らが築いた4つの国が、今で言うトリアトア、ヴィトルンハイト、ラムダ、ナイリカのことなのだろうな。
 これらの国の祖が、ジパングから来たのは間違いないのだろう。
 そんな伝承だ。
 光も闇も、人間も、自身を是とするならば、相手は必ず否となるのだ。昔から何も変わらない真理なのかもしれないな。


 ……ん?
 ああ、私の聞いたのはそれくらいだ。あまり楽しくなかっただろう?
 知れてよかったと?
 それなら、よかった。
 知ってのとおり、私は生まれてから外界に出たことはない。知らないことだらけの世界でも、私にしか知らないこともあるんだと解った。
 ……なんだか、不思議だな。


 ……あぁ、そろそろ寝なくては。
 テノールもバスと見張りの交代ではないのか?
 ……あぁ、おやすみ。
 明日にはユニコットに着く。気を引き締めて向かわねばな。



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