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会いたい気持ちは空に
寂しい気持ちは海に
溶けて交ざって絡まって
世界を流れて行くのです
あれから、私は旅に出る事にしました。
あの空に願う方にどうしても会いたくなってしまったからです。
彼の地のご息女が、その空に願う方と確定したわけではありません。
だって私とそのご息女は会ったことすらないのですから。
でも、私の中の何かが言うのです。
彼女こそが、空に願う方なのだと。
私は、父の領地からめったに出ない、所謂世間知らずのお嬢様なのでしょう。物理的な餓えを経験したことなく、身体的な苦痛を感じたこともありません。
知識こそは毎日のお勉強で学んでいましたし、マナーなども心得てはいました。それがこの先、一体何に役立つのかと少しばかり考えたりしながら。
夜中に目を覚ました私は、ベッドサイドにあるタンスに手を伸ばしました。そのタンスは、母方のお祖母様が私に下さった、とても高価で歴史的にも値打ちのあるものだといいます。
その一番下の引き出しを開けます。中身は、まだ使っていないノートや頂いたカードなどが入れてあります。それらを全て取り出し、現れた底に隠れるように付いている紐を、ゆっくりと引き上げました。
その紐は底板と繋がっており、隠されていた二重底を顕にしました。
そこにしまわれていたのは、二丁のハンドガンとそれのための銃弾が入った箱。
黒々と鈍く輝くそれらを私は箱から取り出しました。それは、私が祖父から頂いたたった一つの秘密。そして罪なのです。
毎日こっそりと手入れをして、見つからないように隠し続けていました。母に知られたら、きっと彼女は昏倒してしまうでしょう。護身術にと、たくさんの習い事を私にさせてきた中で、彼女が唯一触れさせなかったことなのですから。
私はスカートをめくり上げ、両足に専用のホルスターを括り付けます。そして、二丁のハンドガンをそこに取りつけ、スカートを下ろしました。これで、私がハンドガンを持ち歩いていることは、誰にも分からなくなります。
次に、手提げのバスケットを広げました。口には布をが付いており、紐を絞ると閉じるようになっています。そうすることで、中に入っているものが見えなくなるようなバスケットです。
そこに旅に最小限必要なものを入れていきます。お金に銃の手入れ油、ハンカチに地図。そうやって選別していき、私はバスケットの口を絞りました。
私は机に向かい、メモ帳に字を刻みます。
この旅は、明らかに私の我が儘なのです。家族や執事たちに心配をかけるのは分かりきっています。たくさんお世話になっておきながら、それでも私は家を出ることを止められないのです。
せめて、私が何故出ていくのかを記しておきたい、と思ったのです。
手紙にはこう書きました。
会いたい人がいる、彼女に会うために少しだけ出かけてくる、必ず帰るから心配はいらない、と。
事実だけを書き記し、最後に間違いなく私の自筆だということを示すため、サインを書きました。
直接言えたなら良かっただろうけれど、引き止められることは間違いありません。いざ、対面で訴えられたとき、上手に家を出られなくなるかもしれません。
弱くて愚かな私だから、このような手段でしか意志を示せないのです。
そして、この衝動を抑えられないのです。
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