空を見上げて 本章 | ナノ



8


 今まで黙って話を聞いていたテノールがそう口を開いた。
 バスは、先程もバスの言葉に嫌そうに反応していたテノールから、まさか自身の身を案じるような発言が出た事に驚く。
 メゾも少なからず目を見開いた。
 そんな二人に構う事なくテノールは言葉を続けた。

「まぁ、確かにあんたは何だか気に入らないし、むかつくけど。 都市ユニコットからの外出が許可されているようなギルドなら、大きな影響力のある組織なんだろう。 そう簡単には許しが出るはず無いじゃないか。 あんただって分かってるはずだろ。 それなのに何でもない風に装うのを、拙は良いとは思わない」

 最後ははっきりとそう言い切った。
 そんなテノールを後押しするかのように、メゾもまたバスへと言葉を投げ掛けた。

「……私は、ユニコットのギルドがどんなものかは分からない。 が、テノールがそこまで案じるようなら私にだってどれ程のものかは想像に難くない。 バスが私たちと旅を共にすると言うのなら、私たちはお互いに助け合うべきではないだろうか」

 向かい合うバスとメゾ、テノール。
 しばらく見合った後、バスが両手をあげた。

「降参だ。 さすがの俺でもそんな目で二人に見られたら適わない」

「バス」

「大丈夫だ、メゾ、テノール。 俺は何の考えも無しにそんな発言はしない」

 ということは、メゾを殺さなかった事に対する許しを得る方法が、バスにはあるということらしい。

「ユニコットについたら、すぐにギルドへ向かう。 まずはそれからだ」

「それには拙たちは……」
「出来れば付いてこないでもらいたい。 別に信頼していないとかではない。 ただ俺一人のほうが早く事が済ませられるからな」

 しばらく考えると、メゾとテノールは互いに見合わせ頷く。

「わかった。 ユニコットについてはバスのほうが詳しいし、何か思うところがあるのだろう。 それについては何も言わない」

「有難い」

「だが、無事に私たちのもとへ戻る事を約束してほしい」

「ああ……必ず」


 そして、メゾは身を翻すと北のユニコットへと歩を進めた。
 それに、テノールは少し小走りに着いていくと、メゾの隣に並んだ。


 まるで犬だな。


 メゾに向かって放つ好意と恋慕は隠されているものではなく、常にメゾに届けられている。
 もし、テノールに尻尾があったなら、恐らくそれは千切れんばかりに左右に振られている事だろう。
 そう思えば、何だか面白く感じられた。


 ユニコットへ向かうのにも、気が少しばかり楽になったような気がした。


 正直、ユニコットに入る門をくぐる度、胸がもやもやしてくるのだ。そこまで自分が弱いとは思っていないが、やはりまだ妹を無くした傷は癒えきってはいないのだろう。

 だからこそ、バスは自分を必要としてくれたメゾとテノールの言葉が素直に嬉しかったのだ。
 自分が性格上、それを顔に出せないと言うのは分かっている。
 だが、彼女らに無事二人のもとに戻る事を願われているのだと思うと、礼が自然とバスの口から発せられた。


 目の前に歩いている二人は相変わらず。
 テノールは自分では気付いていないのかもしれないが、かなり積極的なようだ。しきりにメゾに触れようとしており、そんなテノールにメゾは気が気で無い様子。
 メゾのこれまで生きてきた経緯からすると、人に触れられる事自体、今までなかったのだろう。こんなふうに純粋に好意を向けられる事も。
 どうしたらいいのかわからず、狼狽えているのだろう。
 あの、メゾが。
 だが、その雰囲気が嫌がっているものではないのも分かる。

 重ねるわけではないが、新しい家族が出来たようで心が安らいだ。







「ひとつ、聞いても良いか?」

 前を歩くメゾに言葉をかけた。

「なんだ?」

 メゾが振り向く。と、共にメゾにまとわりついていたテノールも足を止め、バスへと向き直った。

「どうしてメゾはユニコットへ行こうとするんだ? 先程俺が話したとおり、とてもじゃないがメゾの目的地になり得るような場所ではないはずだ」

 そのことか、とメゾは口を開いた。

「私は、何も知らない。 識っている事は"そう"だという知識でしかない。 そんな曖昧で未熟な私だからこそ、様々な地を見ておきたいのだ。 善い部分だけを見ていては、善い結果は育まれない」

 なにより、とメゾは言葉を続ける。



「バスの生まれ育った場所とやらを見ておきたいと思った」

「……」


 というか、とテノールが話に加わる。

「あんたのギルドにも行かなくちゃいけないんじゃないのかよ。 このまま違う土地に行っていいわけないだろ?」

「私は別に好奇心のみで向かうわけではない。 知りたいから行くんだ。 ……バスの事も心配ではあるからな」

 ふいっ、と翻し、メゾは再びそのまま北へと歩き始めた。先程と同じようにテノールがその後に続く。


 バスはしばらく立ち止まっていたが、すぐに二人の後を追った。


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