空を見上げて 本章 | ナノ



7


「なるほどな……。 都市ユニコット、そこがバスが生まれ育った土地なのか」

 左右を木々が鬱蒼と生い茂る森の中、なだらかな坂道を三人は登る。
 それは都市ユニコットへと続く道の中で、最も人目に付きにくい道である、らしい。
 確かに日は昇っているというのに、メゾたち以外でその山道を歩いている者はいない。たまにすれ違いはするが、それもまた珍しいくらいに少なかった。


 昨日の夜、都市ユニコットへ向かう事にしたのは良いのだが、夜中だったため列車は終電を迎えており、しばらく北へと歩いた後野宿という形になった。
 朝を迎え、列車に乗ろうと提案したテノールをバスが止める。バスは、列車での移動は足がつきやすいと意見したのだ。
 列車に入ってしまえば安全だと言えるのかもしれない。歩きよりは確実に早く着けるのも事実。しかし、もし追っ手も同じ列車に乗れた時を考えると、逃げ場がなくなってしまうのもまた事実なのだ。
 メゾは、バスの意見に対して一理あるとし、結局一行は徒歩で北へと向かうこととなったのだ。

 その道中、これから向かうであろう都市ユニコットの話が、領民であるバスの口から語られた。


 バスが話した内容を、メゾはもちろんのことだが、全く知らなかった。しかし、テノールが耳に覚えがあったらしく、やっぱり、と声を漏らした。

「ユニコットの話は、拙達の村にも噂程度に聞いたことがある。 ……酷い有様なのだと」

「酷いなんて言葉だけでは片付けられないだろうな。 奴が領主になってからのユニコットは地獄と言っても良いのかもしれない。 弱いものはより弱者に、強いものはその弱者から全てを奪う。 自らに力が無ければ何も守れない。 そうやってユニコットは下へ下へと暗闇に身を投じ続けているんだ」

 ふっ、と自嘲ぎみにバスが笑う。その表情は苦しそうな、しかしどこか諦めが滲み出たものであった。

 その時、メゾに一つの疑問が浮かぶ。先程のバスの話が真実だとするならば、ユニコットの領民は簡単に都市の外には出られないはず。
 では、何故バスは自由に都市の出入りが出来ているのだろうか。

「ああ、俺は外に出ることを許されている。 でも別に上流階級っていうわけじゃないんだ」

 メゾの疑問にバスは簡潔に答える。

「俺が所属しているギルドがあってな、そこにいる者のうち何人かが外に出る許可をフェルマータから貰えてるだけだ」

「ギルド?」

「ああ、様々な仕事を請け負う集団。 ……人殺しみたいな汚い仕事すら請けるのさ」

「そこに、おまえが?」

「所属している。 だからこうしてメゾを殺しに来たんじゃないか」

 ああ、来ていた、だったな、とバスは言い直す。
 そんなバスの態度にメゾ自身は特に咎めるような事はなかったが、テノールが若干眉をひそめた。

 ならば、とメゾが言葉を続ける。

「私を殺さなくて、バスは大丈夫なのか? ギルドというのはある程度の人数を擁した組合なのだろう? 任務が遂行されなかった場合、バス一人の問題ではないはずだ」

 メゾの言葉にバスは肩を竦めた。

「全く問題が無いわけではない。 だが、何とかするつもりだ。 メゾを殺さなかったのは俺の勝手な判断であって、メゾが心配することは何もない」




「……無い事もないんじゃないのか」


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