黒黄

ぴたりと触れた肌が、すこしだけ震えて居るのが分かった。金色とも呼べない黄色の髪はさらさらと揺れていて、表情もいつものような明るい笑顔だ。それをわざわざ問い詰める様な事は自分には出来ないしする気も無い。きっと彼は、黄瀬は怯えて居るのだろう。出来る事なら自分であって欲しくはないと考えても、そうなって仕舞っては仕方ないと、黒子は半ば諦めの様なものを感じながら閉じていた目蓋と共に薄い唇を静かに開く。黄瀬の身体が、また一瞬だけぴくりと震えた気配がした。

「大丈夫ですか」

疑問系では無いゆっくりとした問い掛け。それに対する返事は期待していないけれど、大丈夫っス、と、小さな声で聞こえた。それが嘘だとは知っていたけれど、黒子はどうしても指摘する気にはなれずにそうですか、と単調に返して会話を終える。そうやって訪れる沈黙は、黒子にはそうではなくとも黄瀬にはとても重いものだっただろう。それに耐え切れなくなったのか、今度は黄瀬が、ゆっくりと声を上げた。

「黒子っちは、オレのこと、好きなんスか」

いつもの明るい調子ならただ単純に自信過剰な言葉にしか聞こえないそれは、いつもの調子を装ってもあまりにも震えた声で極端に評価が変わる。その変化に満足しながら、黒子は何も気付かない振りをして黄瀬の上着の裾を皺を作らない程度に掴む。こうすれば、何もかも気づいて居る彼はいとも容易く動くことができなくなる。

「いいえ」

愛していますよ。
まるで世間話をするようにあっさりと言い放たれたその甘い言葉の意味を、黄瀬はどこまでも理解している。理解しているからこそ恐ろしいのだ。この、自分よりも小さな弱い存在が。
どこか遠くから、子供の遊ぶような声がした。どこにでもあるいつものような夕暮れだ。今の状況を除いては。

「じゃあ、なんで、」
「愛しているからですよ」

気付けば黒子は珍しく笑みを浮かべていて、それが黄瀬にはとても綺麗に思えたものだから思わず見惚れてしまったような錯覚に陥ったが、直ぐにそれがただ単純に動けなくなっただけだと理解する。足が、竦んでしまっているのだ。
ふわり、と、気付けば黒子の手は黄瀬の目立つ色の髪を優しく撫でていて、思わず後退りしそうになっても上着を緩く掴んだ黒子の片手がそれを許さなかった。
ぞわり。無意識に、鳥肌が立つ感覚がした。

「愛しているから、誰にも渡したくないんです」

ひくり。僅かに黄瀬の喉が震える。黒子のその手はどこまでも優しいのに、その言葉にはどこまでも恐怖しか感じられない。そうしてまた、黒子が黄瀬に抱きつく感覚があった。わかるでしょう黄瀬くん、と、明らかに否の返事を許さない問い掛けと共に。

「ボクは、黄瀬くんを愛しています」
「ただ、黄瀬くんにもボクを愛して欲しいとは言わない」

理解してほしいだけなんです、と、あまりにも優しい言葉で黒子は言う。黄瀬はすっかり力が抜けてしまっていたけれど、何故だか頷いてはいけないような気がした。
次の瞬間にはもう黒子の顔が近づいていて、そのまま性急に塞がれる唇に、黄瀬は矢張り言葉を奪われる。

「……ん、…」

散々になるまで黄瀬の口内を荒らして、垂れる唾液を満足げに見ながら、黒子はまた優しく笑った。その笑顔が本当に綺麗で、すっかり思考する気力も何もかも奪われて仕舞った黄瀬は、震わせていた手を黒子の頬に這わせて、静かに笑った。頷く事はしなくとも、それがどういう意味を含んだ行動か、黒子はきっと分かっている。
それでも黄瀬がまだ怯えている事は、机についた片手がまだ震えていることさえも、黒子は全て把握しているから、だからこそ。
今度はゆっくりと、本当にゆっくりとした仕草で、また黄瀬の唇に自分のそれを重ねた。



対価を得るための犠牲/120711
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