黒黄
下品な話

眠る時にすっかり疲れてぐっすり眠ってしまうオレはあまり他人の言うような夢などを見ることは無くて、例えあるとしても見た事すらも忘れてしまう様な陳腐で下らない夢でしかない。それは昼寝をする時や居眠りをする時だってそうだ。夢を見ないと人は死んでしまうと言った誰かの言葉は、きっとオレには当てはまらないのだろう、と、そんなことを考えるような時もあった。
そんな感じで、つい最近まで夢を見る事も叶わない程度には深く眠る事が出来ていたオレは、どうやら短い人生で初めて睡眠不足というものに陥った様子だった。
夢を見るどころかすっかり眠る事もままならなくなった夜、布団の中ではあ、と溜め息にもならない息を吐き出した。原因は分かっていても、それを責め立てるような気分にはなる筈もない。柄にも無い、と軽く毒づいて自分の身体を抱き抱えた。まるで、そうすれば眠れるとでも言いたげだ。実際は、ただでさえ眠れないのが更に寝辛くなるだけで、その行為に対した意味はない。
ふと、何かかたい物が太腿の辺りに触れた気がして視線を下げれば、寝間着を押し上げる自身のそれがあることに気付いて酷く顔を顰めた。感じるのは他でも無い、オレ自身へ向かう自己嫌悪。……今、オレは、何を考えたんだと、自分でも分かっているからこその自問自答。明らかにオレは今欲情していて、そしてその対象は?

「……は、あ、」

答えは余りにも簡単だ。ここ最近のオレの寝不足の理由で、オレの中であまりにも美化された、そして大きすぎる彼の存在。「……黒子、っち、」情けなくて思わず涙が出てくる。叶わない事などは知っている。どこにでもある本の中の、ありきたりなラブストーリーハッピーエンドなんてものは現実には存在しない。それでも、身体はやっぱり求めているのだ。これが恋と言うものか、とは、知ってから後悔するものだ。思わず下半身に這わせた手は、やっぱり性欲には逆らえないのだと言っているようで。

「あ、う、黒子、っ、」

いつもの呼び名ですら忘れて、馬鹿みたいにぼろぼろ涙を零しながらする行為を気持ち良いとは思えなかった。彼がみたら何を思うだろうか。そんな事を考えるなら、死んだほうがいいとすら考えた。
べっとり、と嫌な感触を残して手に残った白濁色をしたそれを、まだ呼吸も整わないまま眺めていたら、酷く惨めなような気分になってしまった。こんな事を何度しようが、いくら彼を求めようが、とうの彼が自分に微笑み掛けてくれる日などは来ないのだと、周りに好いてくれる少女は沢山居ると言うのに男に恋心などを抱いてしまった自分の方が異常で罪悪感を感じるべき存在なのだと、そんな現実を突き付けられたような気がした。

「……はは、」

これじゃあオレ、ただの馬鹿じゃないっスか。
夢を見る事なんてした事が無かった。会いたい人に夢で逢えるだなんて、下らないおとぎ話だとしか思わなかったのに、それを願っているオレは、本当にただの馬鹿だ。何時の間にか止まっていたはずの涙は、また何時の間にか溢れ出していた。ほら見ろよ、これが結果だよ。上手く行くなんて、考える方が阿呆だったんだよ。
少し前まで隣にいるように見えたあの姿は、今ではどれだけ走り続けても掴めないような気がしてまた悲しくなった。きっと今日も明日もその次も、彼がオレに向かって笑いかけてくれるような事は無い。それで良いとは、どうしても諦めきれない自分がいる事に気付いてやっぱり自己嫌悪に陥る。綺麗になど見えない夜空は、どこまでも暗い真っ黒のままだ。そうしてまた、眠れない夜がゆっくりと過ぎて行く。その事実に、ただ膝を抱えて蹲った。
きっと今日も苦しいままで、きっと明日も眠れないのだと、そう考えると、幾ら分かっていてもひどく悲しくなってしまった。
恋は罪悪だと、誰かの言葉がまた脳裏に蘇った気がした。


幸福とは幻想だ/120706
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