福荒で軍パロ

・前の軍パロとの違いは荒北が初期北じゃないことです

・福ちゃん(大尉)と荒北(大尉)は同期、荒北はアタッカーな福ちゃんのサポート



全てを捧げる覚悟はあった。
血も肉も骨も、自分が使えるすべてを持ってして福ちゃんが全力で戦えるようにサポートする。
例え足が潰れようが手が飛ぼうが結果的に勝利を掴みなおかつ福ちゃんが無傷ならそれで何も問題なし。
だから今回も、俺は最終的には大成功を修めたのだと思う。
けど、作戦が成功した時には珍しく表情が普段より明るくなる福ちゃんの顔は、作戦が終わった今も険しいままだった。
険しいというよりどこか責任の重圧に押しつぶされかけている、ような。
その表情の原因を分かっているくせにこの沈黙を破れない俺も俺だ、とりあえず回りくどい言い方をやめることにする。
端的に言えばまあ、俺は。
この作戦で、右腕を失ったわけだ。
可笑しい話だが腕ってのは無くなった後でもまだそこに生えているような感覚がある。
神経が通り、血が通い、関節が軋む、そんな使い慣れた右腕がきちんと存在すればいいのだが、残念ながら右肩を見ればそこにあるのは血が滲む包帯に包まれた切り口だけ。
福ちゃんを庇って肘から二の腕にかけて散弾を浴びまくった俺はダセエとしか表しようがないが、それでも右腕一本の犠牲で済んだのだから幸いと言うべきだろう。
もう動かないと宣告されたそれを切り落とすのには何の躊躇いもなかった、俺は両利きだから戦術的な問題点もさほどない。
だから、損害はないに等しい。
のに。
目の前で眉を下げる福ちゃんはそれでも自分から重責の渦に身を投げ込むのだから、放っておけないのだ。

「痛むか」

15分近く続いた沈黙を破った一言は、腹の底まで響くような低く心地よい声質によく似合う。
ただしそこにはいつものような覇気が圧倒的に感じられない、足りていない。

「もぉ大丈夫」

「そうか」

とりあえず肉が喰いたい、なんて本心を吐露する場面ではないだろう。
今の俺には福ちゃんが何を考えているのかさっぱり分からない。
だから俺がすべきことは、福ちゃんが自分の考えを吐き出すそのときを待って、きちんとその思いを受け止めることだ。
そしてその時は、意外と早く訪れることになる。

「すまなかった」

この言葉は想像できていた。
問題は何に対しての謝罪の言葉なのか。
俺は福ちゃんのためなら死ねる、足でも手でも何でも切り捨てられる。
だから本来、そんな謝罪は不要なのだが、しかしそこを謝ってくるのが俺の知る福富寿一という男だ。

「俺の注意力が散漫していたせいでお前が」

「いーんだよ、俺は福ちゃんのサポートしてただけだっての」

「しかし、」

「福チャン背負いすぎ。俺が両利きなの知ってるでしょ?」

俺が左も使えることを知っている人間は数少ない、というより知っているのは福ちゃんだけだ。
それを知りながらも自分をここまで追い込んでしまう、本当に危なっかしくて目が離せない。
周りから呼ばれるままに背負った、天才と、最年少大尉という称号がそうさせているのか、詳細は知らないが俺にできるのは、今するべきことはこれだけだ。

「俺は、福チャンと戦えればそれでいいんだヨ」

「…荒北」

敵陣目的地まで攻め込み、到達したそこで背中を預けて引き金を引く―ただそれだけのことだが、俺はあの瞬間が好きだ。
最も信頼する相手に全てを委ね、そして命を背負う心地よい重圧。
きっとそれは、福チャンだって好きな瞬間のはずだ。

「お前が居なければ、俺は福富寿一大尉では居られなくなる」

「分かってンよ」

突き出された右拳に、左拳をぶつける。
伝わる体温は何度も感じている物なのに、不思議といつもより安心できた。
いつ息絶えるかも分からないこの環境でしか味わえないこの絆が、最高に愛おしい。

「死ぬな荒北、命令だ」

「福チャンこそなぁ」

いつもの福ちゃんの覇気の籠もった命令に力を込めた返事をして、俺は軽くなった体に力を漲らせるのだった。





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