誘い受け福荒

・荒北誘い受け風味



妖艶。
一言で言うならその言葉がぴったりだ。
同じ男のくせに細い腰といい妙に白い肌といい、興奮材料にならないものを見つける方が難しい。
ベッドで上体を起こしただけの俺の上に跨がる荒北は、その腕を俺の首に巻き付けてくる。

「福チャン、シたい?」

鼻先が触れ合うほどの近距離で吹き込まれる甘えた声。
このまま抱きしめたい、抱き潰してやりたい、湧き上がる性衝動をなんとか抑えつけながら、ひたすらに余裕を保っているふりを続ける。

「いつも通り積極的だな、荒北」

「靖友だっつってんだろ、」

バァカチャンが、と。
口角を上げる荒北に甘く訂正された呼び方を、しかし今は改める気はない。
じらせばいい、さんざんお預けをして、いたぶって、耐えて、得られる結果が数段上のものであるという理論が当てはまるのは、何もスポーツに限った話ではないのだから。
ただこの場合、じらしているのがどちらか分からなくなってしまっているだけだ。
お互いに上辺だけの余裕を削りあって、限界まで我慢して、どろどろに愛し合って、最後にはどちらの体か判別が付かないくらいに体温を分け合う。
理想形、だと俺は思っている。

「いー匂いすんなぁ、福チャンは」

「洗剤だろう、俺の匂いじゃない」

「ちげェよ、汗の匂いだヨ」

向き合ったまま、鼻先を俺の首筋に埋める荒北は野生の動物といった印象が本当によく似合う。
俺の匂いを嗅ぐ度に僅かに聞こえる呼吸音も、時折鼓膜を震わせる楽しんでいるような声も、まるで餌を前にした狼だ。
そんなことを考えながら、艶のある黒髪に覆われた後頭部に片手を回そうとしたそのとき。
鎖骨を這う、湿った感触に背筋が粟立つ。
続いて同じ箇所に当てられた堅い感触と柔らかなそれに、痕を付けられたと近くするのは簡単だった。

「ハッ、ちゃーんと濃いいの付けてやったぜ?」

「だろうな、しばらくは消えそうにない」

「そりゃよかった」

俺に体を預けて満足そうに笑う荒北から漂う色香は、もうどうしようもないくらいに俺を誘ってやまない。
ああ、そろそろ本当に限界だ。
ペダルを踏んで前に進むのとは違う、ここではゴールは俺が決められる。
預けられていた体重を腕で支え、荒北を膝の上に立たせ無防備に晒された首筋に歯を立てる。

「は、」

漏れる吐息は、完全に欲情した荒北が出すもの。

「倒れるなよ、これからが本番だ」

さらに力が抜けた体をなんとか支えながら、次はどこに痕を付けようかと悩む俺の頭は、もう他のことに余地を割く余裕すら失っていた。




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