ごはんと黒荒

・黒田雪成×荒北靖友

・初黒荒です、お手柔らかにお願いしますm(_ _)m


・荒北が作ったペダルカフェの荒北プレートを洋南荒北さん宅で食べる黒田くん


「…量が少なくないですか荒北さん」

「っせ黙って食え」

正方形の白いプレートの上に並ぶチキンライスは某アイスクリームのスモールサイズ並、メインである骨付き肉はいい具合に焼けていて美味しそうな匂いもするが、二つでは静岡までとばしてきた俺の胃袋を満たしてくれそうにない。
せっかく荒北さんの手料理を初めて頂くのだからたくさんおかわりをしようと心構えをしていた俺としては拍子抜けをしてしまう。
後で得意料理のスクランブルエッグを強請ろうかと悪い方向に思考回路を回しながら、用意されていた空色の柄の箸を手に取る。

「いただきます」

「…」

無言の荒北さんの目の前でとりあえず肉をかじる。
自炊しているからか、その味は問題なく合格点、というより本当に旨い。
腹が減っていたこともあって感想も言わずにチキンライスを掻き込めば、鶏肉の出汁とケチャップの甘みが口内を満たしてくれた。
旨い。
さすが俺の嫁の荒北さんだ。

「どうよ黒田チャァン」

「ふまいでふ、めひゃくひゃふまいでふ」

「喰ってから喋れよバァカチャンが」

マナーを指摘され、ちゃぶ台の向こうから鋭いデコピンを喰らっても、俺の食欲は止まらない。
あっという間に料理を綺麗に片付けた俺は、箸を置いて一息つく。

「で、荒北さん」

「何だヨ」

「俺まだ腹減ってんですけど」

「そォ。なら水でも飲む?」

この容赦ないツンツン属性がたまにデレるのがたまらない魅力だと荒北さんは気づいているのだろうか。
気づいて相変わらずこんな態度をとり続けているならとんだ魔性だと思う。

「俺、荒北さんのスクランブルエッグ食べたいです」

「ふーん
お前そんなに腹減ってんの?」

「ここまで来るのにけっこう体力使いましたからね。
正直めちゃくちゃ減ってます」

「じゃあ久々に走るかァ」

「鬼ですかあんたは」

今このスタミナで走ればスタートの時点で500m近くは離される自信がある。
それを知ってか知らずか、荒北さんは笑いながら俺の頭をぽんぽんと軽く撫でて言った。「俺に勝ったら、何でも好きなもん食べさせてやるヨ」

何でも。
一つ言っておくと俺、黒田雪成は健全で性欲もスタミナも人並み以上にある高校三年生の男子で恋人は荒北靖友先輩だ。
そしてそんな荒北さんに何でも好きなものを食べさせてもらえると言われれば、こちらとしては食べ物のことなんて頭から吹っ飛ぶ。
だから、こんな中学生みたいな質問もしてしまうのだ。

「…じゃあ俺、荒北さんを食べたいです」

その言葉を告げた声が小さいことは自覚している。
けど俺の言葉をしかと聞き届けたらしい荒北さんは、意地悪く笑い、そして言う。

「食ってみろヨ、勝てるならなァ」

鋭い、しかしどこか俺を酔わす目つきに突き動かされるように立ち上がる。
玄関に置いてあったヘルメットを手に取り、愛車へと急ぐ俺の体はいつの間にか空腹を忘れていた。




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