セフレ荒←黒

・荒←黒、ユキちゃんは荒北さんが好きだけど荒北さんはユキちゃんとのほもセックスがすきなだけ

・自己満

・2人ともナチュラルにゲイ




全力で自転車を漕いだ時とはまた違った疲れと倦怠感に包まれるダブルベッドの上は、取り替えたばかりのシーツの清潔な匂いがする。
さっきまであったはずの濃い汗の臭気はどこへやら、荒北さんほど鋭くもないけど鈍ってもいないはずの嗅覚で探っても、捉えられるのは俺自身からの汗の匂いくらいしかない。
事後処理も完璧に手早く行う荒北さんはわざわざピロートークなんて女々しい物もしない。
終わったら終わったで目立つ汚れをさっさと拭き取って、温水で濡らして固く絞ったタオルを俺に投げつけて風呂場に直行、これが異性間ならば女がブチ切れているところだろうが、俺たちは同性だし何より俺自身この扱いに文句は皆無だ。
そう、何も問題はない、のに。
安いラブホのシャワールームから響く水音がやけに虚しくて寂しくて、思わず両手で耳をふさいだ。
静寂に包まれる部屋。
さっきまであり得ないくらい高く、吐き気がするほど甘い声が響いていたとは信じられないほどの静けさに精神が安定するのが感じられた。
最近はいつもこうだ、何気ないことに不安になったり、あるはずのないものにすがりたくなったり。
しっかりしろ黒田雪成、と自分を叱咤激励したところで、隣に体温を感じて俺は耳をふさぐのをやめた。

「何してンの」

不思議そうに俺の顔を覗き込む荒北さんからは、つい数分前まで俺に見せていた獣性が抜けている。
喰い殺される、抱き潰される、恐怖に混じる僅かな期待をこの人はきっと知っているのだろう。

「ちょっとふさぎたくなっただけです」

「変なの」

ずれかけた思考を戻して笑顔を貼り付ければ、くすりと笑顔を見せた荒北さんはベッドに横になったままの俺の隣に滑り込んできた。

「ねぇ荒北さん」

「何だヨ」

「愛情って、なんだと思います?」

意味のない質問だった。
例えるなら、買ってきたアイスクリームのフレーバーを選んだ理由を聞くくらい、つまり、特にその回答がどうしても気になるわけではないのにした質問。
当然荒北さんも、馬鹿馬鹿しいとばかりに大きなため息を返してくる。

「何なのユキちゃん、愛情不足ゥ?」

「そんなんじゃないですよ」

ただ、純粋にそれが知りたいだけです。
倦怠感に身を任せ、白いシーツの上で向き合いながら出す言葉は嘘まみれだ。
ああ、吐き気がする。

「知らねー、興味も無ェし
ただまァ、1つ言うなら」

そんな俺の心情をきっと知らない荒北さんは、洗い立てで石鹸のにおいが香る体を重ねながら、わざと低く響かせた声を吹き込んでくる。

「俺は最中のお前、けっこう好き」

脳天を揺らす、しあわせな言葉。
それがこの体だけの関係を続けるためだけのハリボテだとしても、俺にとってはこの人が度々零すこのひどく冷たいのに甘い、「好き」というセリフが愛情だ。

「俺も、好きですよ」

「っせバーカ」

深く考えるのはよそう。
今はただ、この底の見えない生温い泥に浸かっていれば幸せなのだ。
結末がどうだとか、倫理がどうだの悩む必要はない。

「荒北さん」

その先に吐きかけた6文字の言葉を言える日は、きっと来ない。




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