インハイネタバレ黒荒

・インハイ(二年目)一日目ゴール前シーンネタバレ注意

・単行本派の方はご注意ください、かといって管理人も単行本派なんで聞いた情報で妄想してるだけです

・40巻を読んで黒田きゅんがどうしようもなく今まで以上に愛しくなりました…箱学二番好きよ…ほも…




二つ目のカーブにさしかかる。
迫る壁が自分の限界に見えて、ぐっと歯を食いしばれば、リミッターを外して闘争心の跳ね上がった本能が限界を破れと囁きかけてきた。
速度は80後半か、このままブレーキ無用で突っ込めば落車は免れない。
が、ここでブレーキをかければ拓人を、箱学のエースゼッケン一番を出す前に京伏と総北に逃げきりを許す―なら、やるしかない。
王者箱学には、躊躇も敗北も不要。
熟考なんぞクソくらえ、最短距離で最適回答を叩き出す。
俺の思うように機能し、答えを導き出した脳に今だけ感謝して、俺は未知の領域へペダルを踏み込んだ。
風圧はない、ただ今俺は速いという確信だけが支配する最速の世界で前だけを見据え、ブレーキを放棄してカーブに突っ込んむ。
憧れを越えたあの瞬間以上の実力を、自分の中の潜在能力を無理矢理にでもこのカーブの上に引き出してやろうとさらなる加速を目指して足を回せば、前をいく総北ジャージと京伏ジャージとの遠かった数mがぐんぐんと縮む、迫る。
届く。
カーブを抜け確信した俺は、ただただ前を見据え、その先に見えるはずの青を捉えようとしたところで。
視界が反転した。
そこからは、もう何も覚えていない。
体を満たす達成感と勝利への確信に満たされて、逆さまになった地面と空の間で緩やかに意識を落とした。



「くーろだチャァン」

そしてこの目覚め。
軋む首を無理矢理動かして声のした方を見れば、ここにはいるはずのないOBの姿がある。
何の冗談だと笑いたくもなる、俺は幻覚でも見ているのかと。
夢は寝て見ろって話だ。

「頭から落車、体に問題は無いってサ。良かったネ」

「…何だよ本物かよ」

「他に言うことあンだろ」

ぶっきらぼうな、それでいて優しさがかいまみえる言葉。
間違いない、荒北さんだ。
ゴール下で迎えられなかった罪悪感の中で、しかし一番に気になったのはレースのリザルトだった。

「、荒北さん」

「んな焦ンなヨ。
葦木場が取った、箱学が一位だ」

その一言に、重荷が下りたような安心に包まれたのは言うまでもない。
王者箱学、そのエースをゴールまで運び一位を勝ち取らせる。
目の前のこの人は、かつてその瞬間を幾度迎え、幾度このプレッシャーと戦ってきたのだろうか。
インターハイ初日にもかかわらず傷まみれの体を眺めながら、昔に探りを入れようとした所で、先に荒北さんが口を開いた。

「馬鹿だろお前」

「あそこでああしないと、箱学の一位はありませんでしたから」

「この先を考えろっつってんだヨ、まだ一日目だろうがバァカチャン」

…ああ、この人はやっぱり優しい。
人には優しいくせに、自分には人一倍厳しくて、天の邪鬼で、でも、だからこそ。
だからこそ、そんなアンタを俺は好きになったんだ。

「荒北さん、俺は大丈夫です。
インターハイが終わったら洋南に行って、あんたに俺の恐ろしさ、何回でも味わってもらいますから
だから、今は俺の走りを見ててください。
箱学のエースをゴールまで運ぶ、俺の走りを」

俺は死なない。
生きる。
生きて、荒北さんと何度でも走ってやる。
ずっと前に決めた誓いを口に出したのは久しぶりで、疲れ切ったはずの体に力と闘争心が湧いてくる感覚に心が震えるようだ。

「…ハ!!当たり前のコト言ってンじゃねェ!!」

口角を上げ笑う荒北さんが、昨年果たせなかった夢。
その夢は俺が、俺たちが受け継いだ。
あとは総合優勝までの道のりを、圧倒的に駆け抜けていくだけ。

「期待してやんヨ、黒田チャン」

あなたのその言葉があれば、俺は何度だって立ち上がってやる。




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