黒田くんと箱学中退荒北さん 3

・もし荒北さんが自転車競技部に入ってから膝を壊して箱学を中退してたら的な設定

・荒北さんはバイトで食いつないでる

・黒田くんは一年生



箱学自転車競技部は今日も今日とて全員が練習に励んでいる。
インハイで走るために必死で技術を上げようと努める者、先輩に叱られないために必死で頑張っているフリをする者、ただ黙々と自分の世界に没頭する者。
そして俺は、隣にいるライバルと覇を競うただの一年生だ。
泉田塔一郎、幼なじみの走る姿を前方に捉えながら、山まではあと何キロあったかと頭の中に地図を思い浮かべる俺の精神は極めて冷静に働いている。
塔一郎はスプリンターだ、平地で多少離されても苦手な山に入れば俺の登りで挽回できるだろう。
問題は果たしてこの平坦でどこまで離されるのか。
いや、よけいなことは考えるな、何かを不安がる前に全力を尽くせと言い聞かせて、流れる汗を拭う。
ああ、こんなときどう全力出すんだっけ。
暑さでイカれたらしい頭で考えても答えは見つからない。
ただ俺の脳みそが見せたのは、ロングライドで前を走る荒北さんの後ろ姿だった。
この前教えてもらったあの色の名前は確かチェレステだったか、チェレステのビアンキにまたがって俺の前をゆうゆうと走るあの人のイメージが、塔一郎に重なる。

「越さねェと」

譫言のように呟いた一言はしかし、今は何より強い原動力だ。
ペダルを踏み込み、睨みつけるように前を向いた俺は、塔一郎であって塔一郎でない背中を捉えたまま力強く一歩を踏み出した。




「今日のユキは、何かすごかったね」

鬼気迫る何かがあるっていうかさ。
練習後、山を登りきり結局僅差で勝利した俺に塔一郎はそう言った。
理由が何なのかを話す気には到底なれなかったが、これはいい力の出し方を覚えたと内心ほくそ笑む。
このままイメージの中だけじゃなく、本物の荒北さんも圧倒できるような実力を培っていけば恐らく、誰にもまけない自分になれる。

「調子が良さそうだな。」

「福富さん!」

確信を得た俺に声をかけてきた福富さんはいつもの鉄面皮だが、舞い上がっている俺はそれすら気にしない。

「いい方法、見つけたんです。」

「何よりだ。お前は俺たちの次の世代をまとめる存在になりうるからな。」

「期待しててください…、あ」

「どうした?」

普段は緊張するはずの会話をなんなくこなした上に、尊敬する人に自分から話題を振る、なんて今からは考えられないミスだ。
このまま挨拶をして立ち去っていれば何も起こらなかった、変に探偵みたいな行動をすることもなかった。
のに。

「荒北靖友さんって、ご存じですか?」

その時。
福富さんの表情は、今まで見たことがないほどの動揺に染まっていた。



[ 24/35 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -