黒田くんと箱学中退荒北さん 2

・もし荒北さんが自転車競技部に入ってから膝を壊して箱学を中退してたら的な設定

・荒北さんはバイトで食いつないでる

・黒田くんは一年生



荒北さんは実家を出て横浜で一人暮らしをしている。
バイトを掛け持ちして生活していて、俺より一つ上なだけなのに高校には通っておらず、生活費はすべて自分持ち。
からあげと炭酸飲料が好き、誕生日は4月2日、掃除ができない。早風呂。風邪を引きやすい。以下略。
荒北さんと出会ってからしばらくして俺が知れたのはこの程度の情報だ。
知れば知るほど謎が多くなる人ではあるが、けっこうな人格者で普通に優しいし暖かい、ただ口が悪いだけなのだ。
一方的に荒北さんに懐いた俺は日曜日の休みの度に横浜に通う生活を続けている。
そして今日も。

「荒北さーん、黒田です」

横浜の一角にある、古いアパート。
インターホンを連打しながら名前を呼べば、出てきて欲しかった人はすぐに入り口を開けてくれた。

「うるッせェナ、ピンポンピンポン鳴らしてんじャねェヨ…」

「今週も来ちゃいました!!」

「人の話聞けよ!!」

まあまあ、と適当にはぐらかしながら立ち入った玄関はやっぱり汚れていて、今日も掃除からかとため息をつきたくなる。
日曜日はバイトを休んでロードで走るという荒北さんの趣味につき合わせてもらうようになってから早数週間、荒北さんのコーナリングになんとかついていけるようになってきた頃にはもう秋も過ぎていた。
高校生三年間はあっという間、誰かから聞いた常套句を思い起こしても残りの高校生活が延びるわけでもなく、この幸せな時間にいつか訪れるであろう終わりを拒否することもできない。
だからいつものようにロングライドを終えて荒北さんのアパートに帰った俺は、その終わりを迎える前に聞きたいことを今の内に聞いておくことに決めた。

「荒北さんって、今までどんな人生歩んできたんですか?」

「…それ、話さなきゃなんねぇノォ?」

そう言った瞳に映ったのは、初めて会ったときにも見えたあのやりきれないような、思い出したくない物を無理矢理飲み込むようなあの色だった。
気にもなる。
あんなキレッキレのコーナリング、ゴールを設定すればまるで獣のように走り出すあのペダリング。
どこかで死ぬほど練習しなければ、あんな代物は身につかない。
あんたは何者だ。
できれば、いや、そんな生ぬるい言い方で足りるはずもない。

「聞きたいです、聞かせてください。」

どんなことを言われようが受け止められる、その自信があったからこそ告げた一言だった。
荒北さんを知りたい。
誰も知らないような深淵まで、覗き込めば戻れなくなるところまでだって引きずり込んでもらってかまわない。
だというのに。

「また、今度ネェ」

そうして差し出した手に、しかし荒北さんは背を向ける。
当然その双眸からは寂しさにも似たあの感情が見え隠れして消えてくれないのだ。





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