卒業荒北さんと黒田くん

・荒北さんが卒業します

・荒北さん依存の黒田さんが荒北さんにひどいことを言ってもらって荒北さんから離れようとする話(付き合ってない両片思い)

・もう荒黒でも黒荒でもどっちでもいいどっちもうまい



「嫌いだヨ、オメーなんか」

この日までに色々なことがあった。
箱学に入学して、才能の限界を思い知らされて、一番嫌いな人間を一番好きになって。
そんな、人生で一番充実していると断言できる高校生活の二年目の終わりの今、 俺は必死で表情を隠し続けていた。
手で顔を隠す、とかいう単純なものではない、いや、隠すという表現がそもそも甘かったのかもしれない。
最愛の、しかし結局何も伝えられなかった先輩の口から出てくる言葉を全身で受け止めながら溢れ出そうな心を口に出る前に喉元で刻んで殺し尽くす。
たったそれだけの作業が、今まで経験したどんな大きな舞台よりも痛くて、苦しくて、どうしようもないのだ。

「偶然ですね、俺もあんたが大嫌いです。
この二年、正直邪魔で邪魔でしょうがなかった」

「言うじゃナァイ、クソエリートチャンがヨォ」

お互いを突き放すために吐く嘘は、いつまでたってもその満足値を示さない。
まだだ、まだ傷つけないと、傷つけてもらわないと、突き放してもらわないと。
荒北さんが卒業してから、一人で泣くようなことがないように。
こんなことなら、あんたなんかに出会わなければよかった、塔一郎につられて自転車競技部になんて入らなけりゃよかった。
あんたを知らなければ、こんな身を焦がすような感情だって知らずにすんだ。

「だい、きらいです」

声が震えているのが自分でも分かる。

「あんたなんて、荒北さんなんて。
あらきたさん、なんて」

じわりと目元に滲むものが何かなんて考えたくもない。
泣くな、泣くなと言い聞かせるほどに溢れてくるそれをぐいとシャツの袖で拭い、前を向く。
大嫌いな先輩は、俺の目の前でその表情を変えずに立ち尽くしていた。

「俺なんて?」

「っ」

続きを促されて、言葉に詰まる。
さっきまで簡単に言えていた三文字が嘘のように口から出てこない。
これを言えばもう今までの時間は消えてなくなるのではないか、そんな不安が胸を駆けめぐって声帯を封じてしまっているかのように。

「荒北さん、」

縋るように飛び込んだ愛しくて仕方ない先輩の腕の中で涙を流し続ける俺の背中に回った手のひらがあたたかい。
このぬくもりがあと数日後には別の場所へ行ってしまうと考えただけで気が狂いそうだ。

「ここにいてください、荒北さん」

「…ホンットに可愛いなァ、黒田」

するりと出てしまった本音は、もう荒北さんに食べられてしまった。
当初の目的を完全に見失って、考えることを放棄して、ようやく得られたこの幸せ。
明るく染まる世界に足を踏み入れながら受け入れた愛しい先輩の唇は、少しだけしょっぱい味がした。





バカップルおめでとう!
黒荒でも荒黒でも尊すぎて最近ぼろぼろ涙流しながらpixiv見させてもらってます…何で黒田くんと荒北さんこんなに尊いのすき…

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