洋南荒北と箱学黒田 4(完)

・箱学三年黒田→洋南荒北←洋南金城

・みんな付き合ってない

・荒北さんは黒田くんの愛に気づいてない

・荒北さんは福ちゃん厨(福←荒)



ここはどこだろう。
ぼんやりとした頭で考えても結論は出ない。
横になった体勢を直すこともなく、力の抜けた体を柔らかなカーペットの上に投げ出したまま窓から空を確認すれば、昼過ぎの日光が俺の視界を滲ませる。
今日は何曜日だろうか―最近はバイトと部活とサークルの繰り返しで、その上もやもやした感情を振り払うために金城や黒田とするというハードスケジュールをこなしていたせいか曜日を忘れてしまうことが多い。
平日なのか土日なのか、それさえ分からないままとにかく場所を確認しようと僅かに頭を上げたその時に、その足音は聞こえてきた。
軽やかに、ステップでも踏んでいるかのような音を、俺は知っている。

「おはようございます、荒北さん」

「…黒田ァ」

部屋の奥から現れたのは、やはりというか何というか、異様なほど笑顔に溢れた黒田だった。
確か昨晩はバイトだった、シフトを頭の中に浮かべれば、今週土曜日は休みをもらっていたことを簡単に思い出す。
ということは昨日は金曜日で、フリーの今日土曜日を見計らって静岡から箱学の寮まで駆け込んできたのか、と呆れ気味に予測する。
これはまた金城からの着信がひどそうだ。

「よく寝てましたね。無理しすぎるといいことありませんよ?」

「っせ…練習はどォした。土曜もあンだろ」

確かによく寝ていたらしい、久々に味わう疲れのとれた寝覚めを味わいながら上体を起こせば、黒田はぞっとするような笑顔で言った。

「荒北さん、今日は木曜日ですよ?」

最初は利き間違いかと思った。
そしてカレンダーを見て、現実と向き合う。
木曜日は大学の講義とサークル、当然部活もある。
俺は昨日一体何を考えてここに来たのか、しっかりしろよと叱責しながら、金城に連絡を取るために定位置の右ポケットにあるはずのケータイを探る、が。

「もう使わなくていいでしょう、これ。」

いつの間にかすぐ近くに膝立ちで目線を合わせるように座る黒田が、冷たい笑顔を浮かべたまま俺のケータイをもって口角を上げていた。
違う。
こいつは、誰だ。
まるで別人のような匂いに、全身が危険信号を発する。
口の中にドライヤーを突っ込まれスイッチを入れられたかのようにからからになる口膣内、荒くなる呼吸はどう整えれば良かったのかすら分からない。

「荒北さん、俺を見てください。
福富さんじゃなくて、俺を、黒田雪成を見てください」

「、っちげぇヨ!俺は」

「いい加減限界なんですよ、こっちを見てくれないあんたを抱いたって欠片も楽しくない」

力の入らない体は、肩を押されただけで簡単に床に倒れ込んでしまう。
俺の手首を固定する黒田の両手には予想外の力がかかっていて、びくともしないどころか体を動かす気すら失せてきた。
ああそうだ、止めよう、諦めよう。
いつものように福ちゃんに置き換えて、妄想の中で喘げばそれでいい、どうせ脳内で何を考えていようが黒田には何も分からないのだから。
目前に迫った危機的状況を飲み下して、頭に浮かんだ不可避の未来を回避する意志は捨て去る。
脱がされたシャツが床に投げられるのを見ながら、いつものように福ちゃんの匂いを思い出す。
そんな最悪のタイミングで。

「荒北さん、此処にいるのは俺ですよ」

上書き。
忘れたかった目の前の黒田の存在が、俺の中の福ちゃんをかき消していく。
あまりの不快感に吐き気がこみ上げるまで、そう時間はかからなかった。

「黙れ黒田、いつもは大して喋らねェだろうが、っ!!」

「嫌です、あんたの中の福富さんなんて、福富さんなんて、
俺の存在でかき消してやりますよ」

見上げた黒田の顔は、泣き顔と笑い顔が混じった、脆く崩れてしまいそうなそれで、俺はもう何も言えなくなる。
こいつがこんな表情で俺を見たことがあっただろうか。
まるであの日の金城みたいに、自分の欲しいものを独占できない苦しみに苛まれているような、そんな黒田に手を伸ばす。
何も気づいていなかった自分を叱責しながら。

「…来いヨ
受け止めてやるからサ。」

これは償いだ。
想いを弄び、軽んじ、ないがしろにし、見向きもしなかった俺の贖罪だ。

「あらきたさん」

「黒田」

涙を浮かべた黒曜石のような双眼と視線を絡ませて、黒田を認めてやる。
もうそれくらいしか、俺にできることは無いのだから。




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