洋南荒北と箱学黒田 2

・箱学三年黒田→洋南荒北←洋南金城

・みんな付き合ってない

・荒北さんは黒田くんの愛に気づいてないかつ福ちゃん厨


掴まれた右手が痛い。
数時間前に黒田に掴まれたそこにどれだけの力が掛かっているかなんて記述するまでもないだろう。
自分のアパートに帰った俺を待ち受けていた金城はまるで別人のような雰囲気を漂わせている。
レース中はアイウェアで見えない冷静な双眼は、今日は怒りと憤りのような感情で濁っていた。

「また、黒田か」

「そ。金城には関係無いけどネ」

「…そうだな」

同意しつつも、その瞳から憤怒は消えていない。
言葉と態度が一致してねぇヨ、と心中で悪態をつきながら一晩ぶりのアパートの一室に足を踏み入れれば、汚れていたはずの室内はきれいに片づけられていた。
誰がやったかなんて、聞くまでもない。
この部屋の鍵を持っているのは俺と金城の2人だけなのだから。

「あンがとネ、掃除まで」

「いや、暇だっただけだ。
朝食にしよう」

俺が居ない俺の部屋で一晩中掃除して、朝飯まで作ってしつこく連絡してきて。
ここまでされれば最初はただの過保護だと思っていた金城への印象も、ようやくはっきりしたものへと変わってきた。
俺はきっと、これに似た感情を知っている。
というより、この感情を抱いたことがある。
身を灼くような嫉妬心、どうすればいいのか分からないまま思いを抱え続ける苦痛、言いようのない苛立ち。
きっとそれは、箱根学園にいた三年間、俺が福チャンに向けていたものと同じだ。
あれをきっと、恋慕と呼ぶのだろう。
結局その感情を晒すことはなかった、だから大学に入学してからしばらく連絡を取っていない福チャンへの思いはずっと頭のどこかでくすぶっている。

「いい加減にしたらどうだ」

「、何がァ?」

まるで考えを見抜いていたかのような金城の言葉に平静を装おうとした、が言葉を紡ぐ前に空いた間は明らかな違和感を生んでしまっている。
下におろしていた視線を上げれば、もう怒りの消えた、どこか寂しと憐れみを残す金城の視線が絡まる。

「福富を追いかけすぎだ。
俺が見ていても分かるくらいにな」

「…」

何が分かる、叫びたい感情を必死に押さえ込めば胸がはちきれそうだった。
あの鈍感さで有名な金城に気づかれるくらい無意識に追いかけていたらしい、あの誰よりも暖かな背中を。
ありったけ吐き出せばよかったのか、泣いてすがればよかったのか。
しかし俺には、福ちゃんに嫌われてもう二度と会えなくなるリスクを鑑みて踏み出すことをためらった。
そして黒田を巻き込んで、金城の気持ちを分かっていながら無視をして。
結論から言うなら、きっと俺は大悪党だ。
だから今、更に悪党になっても何の問題もない。

「金城ォ、俺お前のそういうトコ、大ッキライ」

「…、そうか」

心と正反対の言葉を吐き出した口元が歪んでいないか必死に確認しつつ、毒を吐く。
明らかに傷ついた顔をした金城への申し訳なさは当然ある、しかしそれを上回る福ちゃんへのこの粘つくような感情はもうどうしようもないくらいに重くきつく俺を縛ってしまっているのだ。
自縄自縛、まさにそれそのもの。
金城はきっとこの状況を打開するために、俺の福ちゃんへの感情をきっと本人に伝えてしまうだろう。
なら、口封じをすればいい、また心を殺して感情を押し込んで、金城もこっちに引きずり込んでしまえばいい。
俺は福ちゃんに嫌われないためなら、何人だって騙すし何人だって切り捨ててみせる。

「ヤらせてやるヨ」

「…は?」

呆然と言葉を返す金城の視線に、一瞬よぎった期待を俺は見逃さなかった。
金城としては好きな人間に幸せになってもらいたい、なんて反吐がでるほど優しい考えで俺の本音を見抜いて感情を白日にさらしたのだろうが、そんな心遣いを今から俺は投げ捨てる。

「とっくに気付いてんだよ、毎ッ回毎ッ回しつこくケータイ鳴らしたのは黒田への嫉妬だろ?」

「っ、誰がそんな」

「否定すんな認めろヨ!」

吐き捨てて、寝間着同然に使用しているシャツを脱ぎ捨てる。
洋南に入っても相変わらず肉の付かない体で金城の首に手を回せば、息をのむ音と心拍数の多い心臓の鼓動が伝わってくる。
悪い金城。

「だから代わりに、絶対福ちゃんに言うんじゃねえェ」

吐き捨てた契約の言葉を皮きりに2人で倒れ込んだ早朝のベッドは、今まで寝たどんな場所より冷たかった。





[ 14/35 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -