どうしようもない黒荒 1

・新開+黒→←荒

・黒田チャンが荒北さん好きすぎてヤンデレ風味

・なんだけど荒北さんは後輩に手を出すのはダメだろとか真面目なこと考えて黒田ちゃんに本心は告げてない、つまり黒田チャンの一方通行に見えて実は両思い

・荒北さんにムラムラしっぱなしの黒田ちゃんはプレイボーイ新開さんといかがわしい関係に走る



あの人はいつも爽やかな匂いがする。
すれ違う度に、先を行かれる度に鼻腔をくすぐる香りはしっかり俺の頭を支配していて、授業中だろうが自宅に居るときだろうがひょっこりと現れ俺の心理をさんざん荒らしてまた来るねと笑いながら去っていく。
トリガーが何かさえ分からない、ただ突然湧き上がるそれを抑えようと思ったことは一度もない。
むしろ脳内再生だけなら何度繰り返したか分からない。
ヘルメットからはみ出した短く黒い髪を、無駄な物が一切削ぎ落とされた細い手足を、その香りと一緒に振り返る時間は俺にとって何より幸せなものだったから。
だから、求めなくていい。
俺の妄想を実現させる、なんて欲は要らない。

「あら、きたさん」

いくら自分にそう言い聞かせても、この口は勝手にあの人の名前を呼ぶのだから困ったものだ。
何が求めていないだ、と自嘲しながら、まだ覚醒していない頭と体をゆっくりと起こして状況を確認する。
寝起き特有のぼうっとした感覚に包まれている状態でも、隣で寝ている新開さんと昨晩何をしたかくらいは覚えていて、何か服を着ようとダブルベッドから床に足を着けた。
行為の後シャワーも浴びず泥に沈むように眠ってしまったせいか脱ぎ捨てた服は散乱していて、僅かながら先輩の部屋を汚した罪悪感に襲われる。
いや、今更か。
それをいうならきっと俺は、新開さんを奥深くまで汚し尽くしてしまっている。
とにかく罪滅ぼしに朝食でも作ろうかとキッチンに顔を出す俺の頭からは、しかしまだ荒北さんの匂いが抜けていない。


新開さんと関係を持ったのは数ヶ月前だったと思う。
荒北さんが好きで、でも相手にしてもらえなくて、高校生らしい欲を持て余していた俺の相手をしてくれたのが他でもない新開さんだった。
いつも明るく振る舞うあの人は、そういう時にはその表情を一変させる。
汚れた、それでいてただ一点を、快感を追い求める純粋な感情が合わさっているからこそ生み出せる切なげな顔を、しかし俺は行為中に見ることはない。
俺は新開さんを荒北さんだと自分に思い込ませ、抱いている。
失礼きわまりないとは自覚している。
が、俺が荒北さんを抱くことなどできるはずもないのだから、利害関係が一致した俺と新開さんには何の問題も起こらない。
かといっていつまでも甘えてしまっていいのだろうか―脳内を駆け巡る葛藤が消える日をいつかは知りたいものだ。

「今朝は、和食かい?」

「、起きたんですか」

新開さんが好きな手作りの卵焼きを焼きながら主食の鮭の焼け具合を見て、そんなことを考えていたから、背後から響いた声に俺は思わず肩を震わせてしまった。

「さっきな…ん、相変わらずお前さんの料理は旨そうだ」

「褒めても品数とご飯の量は増えませんからね」

「そりゃ残念」

この人は本当によく食べる。
一食で白米二合なんて量を軽々と平らげる人間はなかなか居ないだろうが、新開さんはそれを実行する数少ない人物だ。
こっちとしては作りがいがあるのだが、正直食費がかなり心配、というおせっかいは心の内に秘めておく。

「そろそろできますから、机空けてください」

「はいよ」

俺に背を向ける新開さんの髪の毛は明るいオレンジに青いメッシュが入った鮮やかな色彩。
そこに居るのが荒北さんだったら―なんて邪な考えと再び頭の中にリフレインしてきた香りを今だけは払いとばして、焼き鮭を盛り付ける俺はきっと今、地球上の誰よりも愚か者だ。





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