その男をコナンが見つけたのは偶然だった。暑い日々が続くので水遊びでもしようということになり、コナンは少年探偵団の面々と保護者として沖矢と共に提無津川を訪れていた。

日差しが強いとはいえ水はまだまだ冷たい。
だがその冷たさにはしゃぐ歩美たちを灰原が微笑ましく見つめているのをぼんやりと眺めて───コナンは気が付いた。提無津川の橋の上に妙な男がいることに。

走っているように見える男はその勢いのまま橋の上から飛び降りた。

「ッ沖矢さん!!」
「ええ!」

ドボン、という音と共に水飛沫があがる。何だ何だと周囲の視線が集まるよりも早くコナンは沖矢と共に走り出す。
浅い川とはいえ、あの高さから落ちてしまえばただではすまない。

自分の意志で飛び込んだのかそれとも誰かに何か言われて飛び込んだのか。理由は直接聞くまで判らないがそれでも目の前で命が失われそうになっているのを見過ごす訳にはいかない。
歩美たちのことは灰原に任せ走れば男が此方へ流されてきた。男の顔は水に沈んでおりこのままでは溺死するだろう。

「コナン君はここに!」

コナンより体格も力も強い沖矢が男を引き上げる為に川に入る。流れていく先を予測し男を引き上げる沖矢を見てコナンは息を吐いた。

川辺に寝転がされた男の体は異様だった。服の隙間から見える肌は包帯で隠されている。
何かの被害者なのだろうかと男の呼吸や脈を確認していると少し離れた場所から光彦の声が聞こえてきた。

「千尋お姉さん!」
「こんにちは、光彦くん」
「お姉さんも水遊びに来たの?」
「それよりさっき人がそこで落ちたんだぜ!」

コナン、基、工藤新一の同級生である一野辺千尋だ。
走って来たのか呼吸が荒く更にこの暑さで汗もかいているようで服が肌に張り付いて酷く色っぽい。白い服を着ているからか更に気になってしまう。

歩美や元太の言葉に千尋が川辺を見渡し此方を見つけたことにコナンは気づいた。そして小走りで近づいてくる千尋にコナンは声をかける。

「千尋さん、この人のこと知ってる?」
「う、うん……知ってる」
「ならこの人がどうして橋を飛び降りたのかもわかる?」
「…………」
「千尋さん!」

コナンの問いに千尋はそっと目を逸らす。それは知っている証拠でコナンは思わず声を荒げながら千尋の名前を呼んでしまう。

もし何か事件性があるならば早く犯人を捜さなければならない。突き落とされたのならばこれは殺人未遂なのだから。だが何も言わない千尋に苛立ちだげが募っていく。そんな時だった。

「…………ん…………」
「目を覚ましましたか。どこか痛いところは?自分の名前などは言えますか?」

男が目を覚ましたようで沖矢が声をかけている。意識を取り戻したばかりだからだろう、男は視線をさ迷わせた後沖矢を見て不機嫌そうに声を漏らした。

「君かい、私の入水を邪魔したのは」
「にゅ、入水?」

起き上がりながら放たれた男の言葉にコナンは思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
男の言葉をそのまま受け取るのなら男は自らの意思で橋の上から飛び込んだということになる。

自分の命を、絶つ為に。

何か追い込まれているのだろうか。何と言葉をかけていいか判らず黙っていると今までずっと黙っていた千尋が深い溜息と共に口を開いた。

「治くん」
「おや。追いかけてきてくれたのかい?」
「買い物の途中でいきなり走り出したら、普通追いかけるよ」

どこか諦めたような千尋の物言いに何がおかしいのか男は笑顔を浮かべた。

「いやぁ入水するのに良さげな川を見つけてしまったからね。飛び込まないといけないだろう!」
「此処横浜じゃないから、いつもみたいに流された先で拘留所に連れて行かれても誰も迎えに来てくれないよ」
「敦くんが来てくれるさ」

…………どうやら男がはいつもこうして入水未遂、基、自殺未遂を繰り返しているようだ。それは確かに言いにくいことだろう。
はあ、と溜息をついている千尋にコナンは同情した。

「一野辺さん。彼とは一体どんな関係なんですか?」
「え、あ、」

沖矢の問いに千尋が答えようとした瞬間男が千尋の手を引いて───一緒に川へと飛び込んだ。
ばしゃん、と水飛沫があがる。千尋は水の中で座り込む男の腕の中にいるがびしょ濡れだ。

肌を滑り落ちる水滴に思わずドキリとしてしまいふと気づく。濡れたことで服が更に肌にはりつき、汗ではりついた程度では判らなかった下着をくっきりと見せている。
コナンたちの後ろで灰原が元太や光彦の意識を逸らす為に話しかけているのを聞いて、コナンは内心拍手喝采だ。

何故男が千尋を道連れに再び川へと身を投げたかは判らないが、どうやら沖矢と会話をさせたくなかったかのように思う。二人の関係は一体、と見ていると此方に背を向けている千尋が不満げに口を開いた。

「…………何、するの」
「今日は暑いからね、これで少しは涼しいだろう?」
「帰ったらエアコンつけるのに」
「帰るまでが暑いじゃないか」
「……もう!」

話しながらさり気なく千尋の背に腕を回し下着を隠す男。体の力を抜いて男にもたれかかっている千尋。
なんと言うべきか昼間から、しかも公衆の面前で醸し出していい雰囲気ではない。この場に安室が居たら激怒していそうだ。なんて考えていると千尋越しに此方を見ている男の目に気づいた。

薄く笑っているのに目が笑っていない。明らかに牽制する男に二人の関係が一体何なのか察してしまう。それは勿論コナンだけではなく沖矢もだろう。水飛沫をあげながら上がってくる二人を無言で見ていると沖矢が口を開く。

「もしよろしければ送りましょうか?一野辺さんもそんな状態ですし……」
「いや、結構だよ。帰る先は同じだし支障はないからね」
「ホォー……」

夏の川辺。何故だが始まった笑顔の応酬にコナンは自身の頬が引き攣るのが判った。

「……早く帰りたい」

男に肩を抱かれている千尋がぽつりと呟いた。帰りたい訳ではないがこの場から迅速に離れたいという意味ではコナンも同意だ。
コクコクと大きく頷くコナンと死んだ目の千尋の間である種の共感が生まれた瞬間だった。
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雫さま、リクエストありがとうございます!
コナンキャラの前で自分たちの世界に入る主人公と文ストキャラ、ということでしたが如何でしょうか…?

夏ですので川や海かなと思ったら何故か太宰さんが飛び降り自殺未遂をするという謎展開になってしまいましたが(;´Д`)

まだ本編では出ていない太宰さんですが、これから主人公ちゃんと自分たちの世界へとトリップすることが多々あると思うので、楽しみにしていただけたらと思います

改めてリクエストありがとうございます!
暑い日々が続いてます、体調には気をつけてお過ごしくださいm(*_ _)m

君とだけの世界へ飛び込んで

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