目を開けるとそこは白い天井があった。ぼんやりとした意識のまま周りを見渡せばコナンくんと安室さんと……砂色のコートを着た男の人が立っていた。

……頭が痛い。起き上がって手を伸ばせば、頭に包帯が巻かれていた。何が、あったんだっけ?思い出そうとすると頭がズキリと痛んだ。


「千尋!!痛いところは?大丈夫かい?」
「え、と」


砂色のコートの人が泣きそうな顔で抱き着いてきた。
私、この人のこと知らないのに。だけどどうしてか、鼻腔を擽る匂いは知っている気がした。さわさわと私の体を触って怪我がないか確認する男の人と目を合わせる。


「どちら様、ですか…?」
「、え?」


目を見開いて男の人は固まった。何かを言おうとして口を開けるけど声は音になっていない。固まった表情がどんどん崩れていって、泣きそうになっている顔のまま優しく抱き締められた。
どうやら私はこの人と知り合いなのにそれをさっぱり忘れてるみたいだ。つまり記憶喪失というものだろうか。


「…………千尋……」


縋るような声色で名前を呼ばれる。何故だか抱き締めてあげたいと思った。そっと手を伸ばそうとして、


「あ、あの……千尋さん…」


男の人の影から顔を青くしたコナンくんが顔を覗かせた。怪我一つない姿を見てほっと息をつく。そうだ、私はを強盗犯からコナンくんを庇って殴られたんだ。


「コナンくん、痛いところはない?」
「う、うん…」


いつもと違う様子のコナンくんに首を傾げていると意を決したようにコナンくんが口を開いた。


「ごめんなさい!ボクが、無茶なことしたから……」
「大丈夫だよ。怪我、なくてよかった」



私が守りたいと思って守ったんだから謝ることはないんだよ。落ち込んでるコナンくんの頭を撫でてあげようと思ったけどそれは私を抱き締めてる男の人によって阻まれる。

……結局、この人は誰なんだろう。


「あの貴方は、」
「……嗚呼、御免ね。少し取り乱してしまったよ。私の名前は太宰治、君の恋人さ」


恋人……。
さっきまでの泣きそうな顔を誤魔化すように貼り付けたような笑みを見せる男の人の言葉になんとなく納得してしまう。この人の傍にいるのが当たり前、みたいな。


「ちょっと待ってください。本当なんですか?証拠は?」
「証拠なら幾らだってあるさ」


だけど安室さんは疑っているみたいで、男の人──太宰さんと言い合いを始めてしまった。確かに異性の問題で安室さんには色々気にかけてもらっているから、本当かどうか疑っているんだろう。

本当に安室さんは正義感が強いなあ。
離さないと言わんばかりの太宰さんに抱き締められながら二人の公論を聞いていると少し眠くなってきた。

ぼやけていく視界の中でコナンくんがハラハラした顔をしているのが見えた。大の大人が二人公論してたらどうしたらいいか判らなくなるよね。

助け舟を出してあげたいけど、とても眠い。


「大丈夫だよ、ゆっくりお休み」
「……うん……」


優しく頭を撫でられる。太宰さんの「大丈夫」にひどく安心する。

……やっぱりこの人は。

私の意識は闇へと落ちていった。




「───さて」


太宰と名乗った男が口を開く。その声の冷たさに部屋の温度が数度下がった気がする。

その日、ポアロを訪れたコナンは読書に勤しむ千尋の姿を見つけた。丁度読んでいる本がある推理作家の新作だったので、二人で感想を言い合っていると更に安室がやって来て話に花を咲かせているとポアロに強盗が入った。

此方には現役捜査官である安室がいるので強盗犯はすぐさま無力化されたが、取り押さえるのを手伝おうとコナンは強盗犯に近づいた。

だが最後の足掻きか強盗犯は暴れ『何か』をしようとコナンに殴りかかったのだ。黒く、濁った光を放つ拳をコナンの代わりに受けたのが千尋だ。そのまま殴り飛ばされ千尋は机に頭をぶつけた。

警察を呼ぶと同時に救急車も呼び、彼女の保護者に連絡したところ現れたのがこの男という訳だ。先程千尋の恋人と名乗った太宰は千尋が目覚めるまでまるで能面のような顔をしていた。目覚めた今もあまり変わらない顔をしているが。


「どうして千尋は、こんなにも君たちに拘るのだろうね」
「え?」
「嗚呼、こんなことになるのなら横浜から出さなければよかった。私の傍にいれば、私のことを忘れることなんかなかったのに」
「あ、の」
「判るかい?最愛の子に忘れられる苦痛が。覚えてもらってる君たちはいいね、殺したい程羨ましいよ」


殺したい程。太宰の発言に嘘はないようで安室が庇うようにコナンの前に立つ。

────一野辺…お前、こんなヤバい人と付き合ってたのかよ……。

安室の背に隠れながらコナンは千尋の寝顔を盗み見る。

太宰の腕の中で寝息を立てている千尋の表情は世界で此処程安心できる場所はないといわんばかりの表情で。例え異常な程執着されていてもきっと彼女は気にしないのだろう。本人たちがそれで良いのなら口を出すことは出来ない。

とりあえず今は。

────これをどうやって解決するかだな……。

コナンの目の前で睨み合う大人二人を見てコナンは思わず乾いた笑みを漏らした。
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茨識さま、リクエストありがとうございました!

敵の異能力の表現がとてもふわっとしているのは見逃していただけたら嬉しいです( ˇωˇ )

多分この後はコナン組と文スト組が喧嘩しながら主人公ちゃんの記憶を取り戻そうと協力するかなぁと思ってます。
敵は既に捕まってますしね笑

暑い日が続いてます、体調には気をつけてお過ごしくださいm(*_ _)m

君が愛に逝くなら

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