05


――――いち兄は俺っちたちがどうにかするから、旦那方は離れにでも行ってくれ。

「主と二人っきりという状況は好ましいが、体良く離れに押し込まれたな」

他の刀剣男士が一期を落ち着かせている間に薬研にそう言われた手鞠と三日月はこじんまりとした離れにやって来た。こじんまりしているとはいえ、簡易なキッチンや浴室までありここで十分に生活出来そうだ。

否、母屋にいる刀剣男士たちが新しい審神者――手鞠を受け入れるまではこの離れが生活の場となるだろう。

手鞠と二人っきりになれたことは嬉しいが追い出されたような状態が嫌なのか、三日月は機嫌が悪そうだ。その美しい顔を不機嫌で染めながら手鞠の膝へ頭を置く。所詮膝枕だ。

手鞠というと。

「…………」

先程までの笑顔が嘘のように消え失せ、能面のような顔で三日月を見下ろしていた。
それに三日月は不安がる訳でもなくクスリと笑い手鞠の顔へと手を伸ばす。伸ばされた手を手鞠は享受する。

「朗らかに笑う主も新鮮で良いが、俺はそちらの方が良いな」
「そう。君も物好きだね」
「俺を救ってくれたのは冷たい方のそなただからな、仕方あるまい」
「別に。君が良いんなら良いんじゃないの」

淡々と言葉を紡ぐ手鞠。その言葉にも顔にも温度はない。二重人格という訳でもない。先程までの態度は猫を被っていたという訳でもない。

どちらも手鞠だ。強いて言うならば、本質を見せているか否か。
手鞠の本質は傲慢だ。全てを等しく見下し、全てを等しく蔑んでいる。そして自分自身というものに絶対の自信を持っている。まるで、噺の中の神々のように。

柔らかい言葉を吐くのは周囲を懐柔する為。笑顔もその為の手段だ。だが言葉遣いを表情を偽っても手鞠は嘘は吐かない。

「一期一振を折ろうとした俺を止めたのは無駄な諍いを避ける為。薬研藤四郎の傷を直したのは己の所有となったものに他者がつけた傷があるのは気に食わぬ為。一振りたりとも折らぬと宣言したのは己のものを壊すような趣味はない為。
主はほんに、傲慢よなぁ。全ての行動が己の為であるのに周囲にそれを気付かせず、それどころかその者の為にやっていると思わせてしまう」
「私が気に入らないなら離れてもらっていいけど」
「笑えぬ冗談など言うものではないな。主、俺はそなたの黄泉路まで共に行くつもりだぞ?」

手鞠の膝に頭を乗せたまま三日月は笑う。何がそんなにおかしいのかコロコロと。
手鞠は笑わない。むしろ面白そうに笑う三日月を不思議そうに見ている。不思議そう、と言っても顔には全く出ていないが。

深い深い溜息を一つついて手鞠は立ち上がる。そのせいで膝に置かれたままだった三日月の頭はゴン、と鈍い音を立てて畳へと落ちた。

「ひどいではないか、老体にはもう少し優しくしてくれ」
「君より私の方がよっぽど老人だけど」
「だが主の見目は若々しいではないか。それにめのこのようだ」

起き上がり三日月はからかうように言葉を放つ。着物の袖で口元を隠しているが、目が笑っている。全く隠せていない。言われた本人は特に反応を返すこともなく、無言で部屋を出ていく。母屋に行く訳では無さそうだが三日月はその後ろをついて行った。

返事ぐらい返してくれても良いではないか。天下五剣は、拗ねた。それはもう盛大に拗ねた。大人気ないと言われてしまいそうな程に。だが手鞠は三日月を目に入れず、離れの中を見て回る。

一人で入るには少々広い浴室に、現世の機器が設置されているキッチン。こじんまりとした外観だったが部屋も十分にある。生活には困らないだろう。
因みに離れを見て回る間、一人と一振りの間に会話は一切なかった。

「宗近くん」
「……なんだ。主など俺はもう知らぬ」
「そう、なら入浴は一人でするね」
「!」

最初の部屋に戻って手鞠が三日月に話しかける。三日月は拗ねている最中なので不機嫌さを隠さず全面に出していたが手鞠の言葉に目を見開く。この天下五剣、主ガチ勢である。

思案する三日月を置いて入浴の準備をしていく手鞠。持っているタオルや着替えは一人分で、このままでは確実に一人で入浴するのだろう。

「…………世話されるのは好きだ」
「知ってる」
「…………俺も風呂に入る。主、俺の世話をしておくれ」
「体は自分で洗いなよ」
「うむ!」

差し出されたタオルと着替えを受け取り、三日月は満足そうに笑う。この主は自分だけの前では笑わないし、言葉も冷たい。だがそれは、三日月は主の懐に入っているから。
天下五剣として大切にされてきた三日月だが、こんな風に大切にされるのは初めてだ。

自分だけに与えられた、特別。三日月は前を歩く手鞠にバレないようにうっそりと笑う。

――――『これ』は自分だけの主だ。
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