24


一期の申し出に対し、三日月は暫し考えた後首を横に振った。自分が彼の主である審神者に刃を向けたからだろうか。
後悔の念に襲われる一期に三日月は何でもないことのように告げた。

「いやなに、今主は『死んで』いてな」
「なっ……!」
「鶯丸がお主を沈めたのを主が指示して、お主を折ろうとしていると勘違いした短刀達に首をぐっさりだ」
「、それで審神者殿は……」
「なぁに。半刻もすれば起きるだろう」

そして視線を下に下ろす三日月に釣られ一期も下────三日月の膝を見る。そこには青白い顔で三日月の膝に頭を置いている手鞠の姿があった。

白一色の着物が赤く染まっており、夥しい出血量を物語っている。本当に生きているのだろうか。恐る恐る触れると、手袋越しに冷たい体温が伝わってきた。ひゅ、と息を飲む。起きるなど有り得ないだろう。これでどうして起きるなどと言えるのだろうか。

思わず責めるように三日月を見る一期に、三日月は美しい笑顔を浮かべた。

「ああ、そういえば。外つ国に口吸いで起きる姫君の御伽噺があるらしい。それが真か試してみるのもいいかもしれぬ」






「ねぇねぇ。今どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」
「ウザい」

数日前に死んだ時と同様、手鞠は教室の席に座っていた。目の前の教壇に座る安心院に手鞠は一蹴する。
ニコニコと笑いながら纏わりつこうとするのをしっしっと払うが安心院は諦めない。ニコニコがニヤニヤに変わる頃、手鞠が深く溜息をついた。

「つかれた」
「年かい?」
「私たち同い年だと思うけど」
「僕らが同時に産まれたってどうやって証明するのさ。ちなみに僕が産まれた時そこは無だったよ」
「奇遇だね。私が産まれた時もそうだった」

くすくす、くすくす。何が面白いのか、安心院は笑う。
面白くないくせに笑うなよ。そう呟くが、安心院は聞こえていないフリだ。

「そうだ、人外」
「なんだよ人外」
「そろそろそちらに行こうかなって思ってるんだ」
「そう。いつも通り、好きにしたら」
「ああ。いつも通り、好きにするよ」

意識が浮上する。手鞠がゆっくりと目を開けると吐息がかかる距離に三日月の顔があった。反射的に手が出てしまったのは仕方ないことだと思う。

ぐえっと蛙が潰れたような声を出す三日月だが、手鞠が起きたことを喜んでいるようだ。

「主。おはよう」
「……おはよう、宗近くん。これは一体どういう状況か聞いてもいいかな?」
「何、主が短刀の子らに殺されて暇だったものでな。膝枕というのをやってみた。どうだ?」
「ううーん、固い」
「なんと」

起き上がり、乱れていた羽織を直すと手鞠は一期に向き直る。青色の目に見詰められた一期は言葉に詰まり、だが目を逸らすことなく真っ直ぐ手鞠を見た。

それに目を見張るとくすりと笑みを零す。

「改めて、初めまして一期一振くん。私の名前は伊万里手鞠。ただの人外だよ」
「私の名は────……一期一振。粟田口吉光の手による唯一の太刀。藤四郎は私の弟達ですな」
「うん、よろしくね!ところで、私に話があるんでしょ?薬研藤四郎くんについて」
「…………薬研が何をしたのか、ご存知なので?」
「ふふっ、内緒」

優しく、蕩けるように、甘く、妖しく、手鞠は笑った。
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