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手入れを受けた刀たちが他の刀に口添えをしてくれたのだろう。警戒しながらも手入れを受けたお陰で本丸は粗方浄化出来た。

だが頑なに手入れを受けない刀もいる為完全とは言い切れない。強い穢れは本丸を覆っている結界に綻びをもたらす。そしてその綻びは歴史修正主義者率いる時間遡行軍に攻め入られる隙を与えているのだ。

手鞠は別に襲撃されても構わないが出陣しなくなり久しい刀剣男士たちでは練度が高かろうが苦戦を強いられるだろう。その結果折れてしまうのは本意ではない。

そこで手鞠は刀剣男士に与えられている部屋の中で最も広いであろう部屋────粟田口一派の部屋を訪れていた。と言っても、部屋の障子に手をかける前に現れた一期一振によって阻まれたが。

「こんにちは、一期一振くん。手入れ受ける気ない?君たちだけっていう訳じゃないけど、穢れは君たち粟田口一派が特にひどいんだよね!」
「お断り致します。……我々を手入れしてどうするつもりですかな。どうせまた酷使するのでしょう」

困ったように笑いながら手入れを、と言う手鞠の言葉を一期一振は一蹴する。どうせ手入れをした後は前任のように我らを酷使するのだろう、と思考は暗い方向へと沈んでいく。

一期一振を筆頭とした粟田口は短刀の数が圧倒的に多い。
そして短刀は装備出来る刀装の数が少なければ、生存値も低い。池田屋や京都市中という夜の戦場ならば活躍するが前任はひたすら部隊を送っていた厚樫山では重傷になりやすい。前任はそんな短刀達を使い捨ての道具として扱った。

そうなれば精神的に追い詰められるのは兄である一期一振だ。

どうか手入れを。弟達を酷使するのはお止めくだされ。
何度も懇願した。何度も地に額を擦り付けた。だが前任は、人間は、一期の心からの叫びを「うるさい」と切り捨てた。

お前と違って希少度も高くない。すぐに手に入る「道具」を使い捨てにして何が悪いの?
醜悪な笑顔と共に言い放たれその言葉、かつての彼女の優しい優しい心など欠片もこもってなどなかった。

「貴方も所詮あの人間と同じです。甘い声と優しい顔で擦り寄り、使い捨ての道具として切り捨てる。そうに決まってます」
「…………それって今まで来た子たちにも言ったの?」
「えぇ、勿論。ですがそれの何がいけないのか私にはさっぱり判りませんな。人間が行ったことをそのままやっただけですので」
「そう」

手鞠のまとう空気が変わったことに気付かず一期は抜刀した。今の一期の頭と心を支配するのは人間への怒りと憎しみ、そして弟達への想いだった。金色の目に赤が混ざる。

それを手鞠は堕ちるのかと何の感情もこもっていない目で眺める。堕ちた刀は見たことがあるが実際に堕ちていく様を見るのは初めてだとぼんやり思う。

一期が憎しみと殺意をこめて伸ばした手が手鞠に届く前に緑色が現れた。

「仲間を殺す気はないのでな。一期、耐えろよ」

鞘に入ったままの刀が一期の頭に振り落とされた。
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