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「燭台切に平野……!お前たち、怪我は大丈夫なのか?ひどい怪我だっただろう!」
「うーん……かっこ悪いけど、大丈夫じゃないかな?ちょうど手入れ部屋にいるって鶯さんに聞いたから手入れしてもらいに来たんだ」
「僕は……その、」

ニコニコと人当たりの良さそうな笑顔を浮かべながら眼帯の男、燭台切光忠とは反対におかっぱの少年、平野藤四郎はどこか思い悩んでいる表情だ。うろうろと視線をさ迷わせては手鞠を見るという行動を繰り返している。

その様子に暫く何も言わずじっと見つめていた手鞠だが唐突に笑い出した。

「大丈夫だよ。君が決めて君がしたことに君のお兄さんは怒らないさ。しいて言うなら私が怒られるだけかな?」
「怒られるだけで済めばいいが」
「宗近くんそれフラグ」
「な、何故僕の考えていることが、」
「判るよ、だって人外だからね」

悪戯が成功した子供のように笑う手鞠。平野は困惑したように三日月に目を向けるが、三日月も面白そうに笑っており助けてくれそうにはない。
兄以外で馴染みが深い鶴丸や鶯丸も見ているだけで助けてくれる様子はない。だがそれよりも平野は鶴丸たちの顔を見て息を呑んだ。

穏やかな顔で笑っているのだ。

前任がいる時には見ることが出来なかったものだ。前任がいる頃、平野たち短刀が見ていたのは兄を含む自分より大きな者達の痛みに耐え忍ぶような顔ばかりだった。

「もう、いいのでしょうか」

ポツリと呟く。兄たちに迷惑をかけなくても済むのだろうか。のびのびと過ごしてもいいのだろうか。ずっと傍で見てきた人の営みを自分たちも味わっていいのだろうか。
俯く平野の頭に何か温かいものが乗った。それは優しく撫でるように頭の上で動く。

「許可なんか求めなくてもいいよ、それは君たちの当たり前の権利なんだから。誰にも許可を貰わなくてもいい、君たちは自由だ」
「……なら、あるじさま。ぼく、ぼく、みんなといっしょに、あるじさまもいっしょに、あぞびだいでずうううう!」
「ぼ、僕も、いに兄や兄弟たちと、皆さんとっ……ご飯、食べてみたい、です……!」

感極まって涙を零す今剣と平野を慰める手鞠の背中に三日月が引っ付く。

基本的に審神者を慕う刀────主ガチ勢と審神者界隈で呼ばれている小狐丸や長谷部は、いつになっても手鞠から離れず、それどころか短刀二振りに対し威嚇する三日月に怒りの言葉を投げかけている。

その様子を他の刀は心底愛しそうに見ていた。ただ一振り、燭台切光忠を除いて。
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