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「俺は主のものだが主は俺のものではない。なぁ、どうすれば其方は俺のものになる?」

そろりと近付いた三日月はギュウギュウと一切の手加減もなく手鞠を抱き締める。人ならば骨が砕けてしまいそうな程な力でも手鞠は笑ったままだ。

なんというか、自らの命の危機が迫っているのに何ともない顔をしている新しい主に鶴丸は深く息を吐いた。初対面はアレだったが驚きを与え仲間に手入れを施してくれる手鞠には感謝している。

だからその命を守ってやりたいとも思っているが、本人にその意志がなければ意味がない。

あの三日月宗近から異様な程執着されているのだ、いつ神隠しされてもおかしくない。
どうやって本人に自覚を持たせるか、密かに鶴丸が考えているとくすくすと控え目な笑い声が聞こえてきた。

「私は私のものだからねぇ、どうしようもないんじゃないかな?それよりいつもより甘えただね、宗近くん。何かあった?」
「……判っていてそれを言うか。俺の主は意地悪だ」
「ふふふふ」

一体何がそんなにも面白いのだろうか。ふふ、ふふふと袖で口元を隠し笑う手鞠を見て三日月は仕方ないと言わんばかりの顔で見ている。

他人が何を考えているのか全てお見通しのくせに、いつだって知らないフリをする人外をいつか自分のものにできる日はくるのだろうか。
否、三日月宗近は必ず自分のものにするつもりだ。あの日黒から掬い上げてくれた白を、そう易々と手離すつもりはないのだから。

溺れて溺れて、一時の離別すらしたくない程に依存してほしい。歪な決心をしながら三日月は他の刀に見せつけるように真白の髪に口付けた。

「その、ぬし様は三日月と懇ろな仲なのですか……?」
「面白いことを言うな、小狐よ!こんなにも睦まじいのだ、そうでない筈がなかろう?」
「ん?私と宗近くんはそんな仲じゃないけど」

困惑する小狐丸をフォローするように笑っていた岩融が手鞠の言葉に固まる。いや、岩融だけではない。部屋にいる全員が不思議そうにしている手鞠を見つめていた。
その顔に言葉をつけるなら、「訳が判らない」だろうか。三日月だけは不満そうな顔だが。

「……こりゃあ驚いた。それを口に出すとは、新しい主は随分呑気らしい」
「鶴!ぬし様に向かってなんじゃ、その口の聞き方は!!」

からかいの色を目に宿し軽口を叩く鶴丸に小狐丸から叱咤が飛ぶ。冗談だと笑いながら小狐丸の怒りを鎮めているが、その本心を知るのは本刃と心を読むことができる手鞠ぐらいだろう。

「主。会わせたい奴らがいるんだが、今いいか?」
「鶯丸くんってマイペースだよね……。いいよ、今なら手は空いてる」

何気ない顔で部屋に入ってきてそんなことを言う鶯丸に溜息をつきながら手鞠は許可を出す。

許可を出さなければいけない程厄介な相手なのだろうかと考えている間にも鶯丸はその『会わせたい奴ら』とやらを中に招き入れた。現れた人物に長谷部が目を開きながら立ち上がった。
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