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三日月と長谷部が剣戟を繰り広げている頃手鞠も刀剣男士を相手取っていた。しているのは怒鳴り合い、殺し合いといった血生臭いものではない。

「あるじさまー!これはなんという名ですか?」
「これはね、モンブランっていうケーキ……洋菓子……も判らないか。外つ国の菓子だよ」
「もんぶらん」
「ふむ……けーき、とは面妖な匂いをさせるものだなぁ。そして俺の口には些か小さいとは思わぬか、主!」
「たしかに岩融のくちにはちいさいかもしれないですね!あるじさまっ、岩融のぶんはおっきいのにしてください」
「ふふっ、うん。いいよ」

離れの簡易キッチンにて。三日月に三時の茶の茶請けは洋菓子がいいと強請られた手鞠は、普段着ている黒い羽織を脱ぎたすき掛けをし洋菓子──モンブランを作っていた。

そこに突然乱入してきたのは鶴丸と彼が連れてきた三条派の刀たちだ。
乱入してきた彼らに手鞠は冷静に「どうしたの?」と対応した。三条の刀たちも手鞠と会うことになるとは思ってもみなかったのだろう。責めるような目を鶴丸に向けたが、鶴丸は素知らぬ顔で手鞠に話しかけた。

『主!また驚きを生み出しているのかい?これは一体何を作っているんだ?』
『現世の菓子だよ。宗近くんに作ってほしいって強請られちゃって』
『……ほう』
『……鶴丸国永くんも食べる?もし大丈夫なら、君たちも』

手鞠の問いに誰も答えなかったが鶴丸が食べようと自身の意見を押し切ったので彼らの分も作ることになってしまった。

別に量が増えることは苦ではないが少し散歩に出てくると出て行ったまま三日月のことを考えると頭が痛くなった。一緒に食べることになれば、2人っきりで食べるのだと駄々を捏ねるに決まっている。

確実にやって来る未来に頭を痛くしながらもモンブランを作っていると、短刀の今剣が手鞠に近付いてきた。今剣に限らず短刀は懐刀として他の刀より長く近く人の傍にあった。そのせいか、人──審神者との触れ合いを好む。

例え人に酷い仕打ちを受け、憎しみに近い感情を抱いているとはいえその性には逆らえなかったのだろう。怯えを目に宿しながらも好奇心からこちらに近付いてくる姿は、とても器用だと思う。

そんな今剣に手鞠は一言だけ声をかけた。「味見してみる?」と。
初めて見る食べ物──クリームを恐る恐る口にして、今剣は花が咲いたように顔を輝かせた。

『これ、おいしいです!』
『俺も!俺も味見したい!!』
『鶴丸国永くんの分はないかな』
『贔屓だ!短刀が、今剣が幼い姿をしているからって狡いぞ!』

ほのぼのとした2人の間に鶴丸が乱入し少々騒がしくなったが、キッチンの中はここがブラック本丸ではある思えない程和やかな空気が流れていた。他の刀たちも今剣が懐いたからか、手鞠への警戒を徐々に解いていく。

鶴丸や今剣とのやり取りに薄くであるが笑みを浮かべている最中、それは起きた。トタトタと軽くもあるが慌ただしくこちらに近付いてくる足音に誰もが柄に手を置いて警戒する。

慌ただしさに敵襲かと緊張した空気がキッチンの中を支配したところで、ピンク色の頭──秋田が勢いよく中へ入り込んできた。

「主君ッ!三日月さんが……!!」
「…………また、何かやらかしたのかな……」

秋田の言葉に返した手鞠の反応ほ、日月を心配するものではなく呆れが含んだものだった。仲の良さが滲み出ている声色に今剣が羨ましそうに手鞠を見ている。

いつか自分もあんな声でお話をしてみたい。そう思い耽る今剣の背を岩融が励ますように軽く叩く。

たすき掛けを解き、置いてあった羽織を再び羽織ってキッチンから出て行こうとした手鞠に、一言も言葉を発さなかった刀──石切丸と小狐丸が漸く声を出した。

「ぬしさま。我らも参ります」
「穢れがあれば私が祓ってしんぜよう」
「…………ありがと。ならお礼に後で君たちの傷を直させてもらってもいい?」
「構いませぬ。……毛艶が良くなったら、櫛で梳いてくださいますか?」
「うん、いいよ。縁側で日向ぼっこでもしながらしようか」

薄く微笑む手鞠に小狐丸は嬉しそうに頬を赤く染めながら俯いた。そんな小狐丸の様子を鶴丸が女のようだとからかい、小狐丸がそれに反論しているとどこからか破壊音が聞こえてきた。

また厄介なことになりそう、と手鞠は密かに頭を抱えた。自分に執着している神はどうも短絡的だ。三日月が何故自分に執着しているのか知っている手鞠は本丸を破壊しかねない程の騒動を起こしている三日月の元へ急いだ。
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