12


足音が聞こえてきて鶯丸は障子の向こう側を見る。鶯丸の傍らに座っている短刀にも足音は聞こえているのだろう。立ち上がろうとしたのを片手で制す。

「そう急くな。まだ短い時間しか共に過ごしていないが、主はお前を傷つけたりはしないぞ」

鶯丸の言葉に短刀は不安そうな顔を見せるが、反論しそうな気配はない。部屋から出ていくのをやめた短刀に鶯丸は満足そうに頷いた。
足音はどんどん近づいてきて、それに伴い話し声も聞こえてくる。声の主に気付いた鶯丸と短刀は顔を見合わせ、笑った。どうやらこの本丸で二番目に警戒心が強い刀を味方にしたらしい。

「なぁ!その羽織はどうなっているんだ?是非見せてくれ!それか仕組みを教えてくれ!」
「しつこいよ鶴丸国永くん!私、しつこい子は嫌いだな!」
「そうケチケチするな!減るようなものではないだろう?」
「いや、減るな。確実に主の何かが減るぞ」
「君は俺に厳しいな。俺が君に何かしたか?覚えがないんだが」
「ほう……俺の前で主を侮辱しておいて、覚えがないか。鳥の名がついているからといって鳥頭なのはどうかと思うぞ」

聞こえてくる言い合いに短刀はふふと笑みを漏らした。こんなにも楽しい気持ちになったのはいつぶりだろうか。そんなことを考えながら、足音の主たちが部屋に来るのを待つ。

とんとん、障子が叩かれ影が映る。見慣れない姿に短刀の緊張は極限まで上がっていく。
返事をしない限り部屋の中に入るつもりはないのだろうか。鶯丸に返事をするのを待ってもらおうとした時、遠慮なく障子が開いた。

「主。俺たちが着替え中だったらどうするんだ」
「別に君たちの下半身見てもどうとも思わないよ?自分にも同じものついてるしねぇ」
「……主は男だったのか」
「鶴丸国永くん、ちょっと歯食いしばろう?大丈夫、資材は沢山あるからね。いくらでも手入れしてあげるよ!」
「じょ、冗談に決まっているだろう!」

ぐ、と握り拳を作ってみせる審神者――――手鞠に鶴丸は焦ったように首を振る。

声色から真面目に言っていたことが窺えるが誰も口にはしない。手鞠の方も若干本気だったことが判るし、後ろに控えている三日月が青い顔をして言うな聞くなと言わんばかりに首を振っていることから『前例』があることが判る。墓穴を掘る真似は誰もしないだろう。

「それより、資材は門のところか?」
「ああ、ここにあるよ」

ずるり、と手鞠が羽織っている羽織の袖から大量の資材が出てくる。鶯丸も短刀もそれを驚いた顔で見ている隣で鶴丸が嬉しそうに笑っている。
台詞をつけるとしたら「そうだろう!驚きだろう!俺も驚いたぞ!」だろうか。手鞠は明らかに容量オーバーの量の資材を出すと手際よく資材を片付けていく。

「俺も手伝おう」
「宗近くん狩衣だしいいよ。しゃがんだりするの面倒でしょ?」
「む……。だがこの量を片付けるのはちと時間がかかるだろう」
「あ、あの!僕がお手伝い、します!」

手鞠と三日月のやり取りに今までずっと黙っていた短刀が口を開いた。手鞠と短刀の目が合う。くりくりとした瞳には手鞠、というより人間への恐怖がありありと浮かんでいて話しかけるのに随分と勇気が必要だったのだろう。

何も言わない手鞠に段々と恐怖が浮かんできたのだろう。短刀はゆっくりと俯こうとしている。

「えぇと、君は」
「あ、秋田です!秋田藤四郎と申します、主君!」
「秋田藤四郎くん、うん、覚えたよ。秋田藤四郎くん、私のお手伝いしてくれる?」
「っはい!」

短刀――――秋田藤四郎は桃色のふわふわとした髪を揺らし、元気よく返事をした。嬉しくて嬉しくて堪らない。そんな感情を全身を使って表している様子が微笑ましい。

手鞠の手伝いをする秋田を鶯丸と鶴丸は優しい目をして見守っていた。張り合うように三日月が出て来た時はその目が呆れたようなものになっていったが。
人を恨み憎み堕ちようとしている神がいるとは思えない程穏やかで優しい時間が過ぎていく。
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