11


鶴丸国永は退屈を嫌う刀だ。
故に刀剣男士として力を貸す時は期待でドキドキしていたし、本霊から分霊になる時もどんな審神者に顕現されるのだろうかとワクワクしていた。

だからこそ、この結果にはひどく裏切られた気分だった。鶴丸は顕現される刀剣の中ではレアだと言われているが、この本丸では比較的早く顕現された。
当初の前任はひどく穏やかな女という印象で本当に戦争ができるのかと不思議に思う程だった。だが戦のことになれば前任はその才能を見せつけた。

怪我をすれば些細なものでさえすぐ直された。家族がいないのだと寂しそうに笑っていた前任に、鶴丸はこの本丸の奴らが君の家族だと言って慰める程だった。

きっかけは、いつだったかわからない。
何かの資料で見たのか、演練場で見たのかわからないが前任が三日月宗近を渇望するようになったのだ。

ほしいほしい、どうして私のところに来てくれないの。
呪のように紡がれるその言葉はまさしく呪そのものだった。

そんな経緯があって鶴丸は三日月宗近に良い感情を抱いていないのだ。例え、己を生み出した刀工と三日月宗近の刀工が師弟関係があったと言われたとしても知ったこっちゃない。

ゲートが開く音が聞こえ、鶴丸が向かうとひらひらと桜を舞わせた三日月が立っていた。自分は、久しく誉桜など舞わせていないのに。大切にされているのだと全身で表現する三日月に鶴丸は歯を食いしばった。

「おや、鶴か。何用か?主ならおらぬが」
「なんだ、新しい審神者は君を置いて逃げたのか」
「……俺の主が、逃げ出すような臆病者だと?」

三日月が目を細めながら鶴丸を睨む。その威圧感に思わず刀に手が伸びる。それは三日月も同じらしく、緊迫した空気が漂う。

傷だらけで疲労も溜まっている鶴丸と、万全の状態で更には誉桜まで舞っている三日月。どちらが有利なのか一目瞭然だ。だが鶴丸はここで退くわけにはいけないのだ。この本丸の古参として残っている者を守る義務がある。

「そうだな、主の憂いを絶つのも家臣の役目か」
「……え。何この状態」

緊迫した空気。一発触発な空気。どちらか──可能性が高いのは鶴丸だが──が折れそうな空気。

それをぶち壊したのはゲートから入ってきた手鞠だった。手鞠の姿を確認した三日月は安堵したように息を吐き、柄から手を放す。

「帰ったか。待ちわびていたぞ」
「そんなに?多分10分くらいだったと思うんだけど」
「10分すら其方と離れるのは口惜しい。いい加減それを理解しておくれ」
「はいはい」

目の前で和やかに始まる空気に鶴丸は舌打ちを1つ。鶴丸の存在に気付いた手鞠は青い瞳にその姿を映した。
審神者という存在を嫌悪している鶴丸にとってはその視線すらも煩わしい。

「自信満々に出かけた割には手ぶらか。新しい審神者はほら吹きだな」
「鶴。貴様、」
「え。足りないかな?」

ごそりと何かを探すように羽織の袖に反対側の手を突っ込む手鞠。暫くしてあったあったと言いながら手鞠が手を出すとそこから大量の資材が現れた。

パッと見だが、恐らく刀剣たちの手入れをするには充分すぎる量だ。一体どうやって羽織の袖の中にその量の資材を入れていた。いや、内容量的に無理があるだろう。
色んな思いが鶴丸の頭を駆け巡るが、口から出てきたのはたった一言だった。

「こいつぁ驚いた……」
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -