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白い刀剣男士――――鶴丸国永に「自分で取りに行く」と宣言した手鞠は本丸から出ていく為にゲートへと向かっていた。
どこにでも自由に行けるスキルはあるが使う気が起きない。それは確実に手鞠の後ろをついて回る三日月の存在が理由だった。

「あるじ。まことに行くのか?其方が行く必要などない、代わりに俺が、」
「宗近くんは本丸待機。ここの子たちが自分で折れないように見張ってて」
「…………」

意地でも意見を変えない手鞠に三日月の機嫌はどんどん落ちていく。それに気づいている筈の手鞠だが、何も言わず何にも触れない。

じわりと滲み出る黒い霧のようなもの──穢れが、その機嫌の悪さを物語っている。

ヒ、と誰かが小さく悲鳴をあげるのを意識の片隅で捉えながら、手鞠は深く溜息をつきながら自分より頭上にある三日月の頭を己の方へと引き寄せた。自然と三日月は腰を曲げることとなり若干辛そうだ。

「宗近くんは、私のこと信じられない?」
「……信じておる。其方を信じぬなど有り得ぬ」
「なら、信じて待ってて。ここの子たち、多分私が集めてくる資材じゃないと手入れ受けないから」

それは確信にも似た思いだった。酷使され、使われることに怯えている刀剣男士が同じ刀剣男士が集めてきた資材を受け入れるとは思えない。自分たちが酷使されてきたことを思い出してしまうから。

それを理解し、三日月は唇を噛み締めながら頷く。長い時の付き合いだ、手鞠の頑固さはよく知っている。だがそれでも納得できないのだ。

「其方が、俺の知らぬところで息絶えるのが、恐ろしい。」

震える声で言われた言葉に手鞠はほんの少し驚きを顔に出した。この天下五剣に、不安だと遠回しでも言われたことなどない。

手鞠の驚きなど他所に三日月は乞う。置いては逝かないでおくれ、と。逝く時は共にだと言ってくれ、と。
何度も何度も繰り返し言われたことのある言葉だが今回の言葉はどこか違う気がする。それはなんだろうか。手鞠には理解できない。

「息絶えるなら、『俺』を使ってくれ」
「……そうさせてもらうよ」
「約束だぞ?」

瞳に宿る月が妖しく光る。ああ、これで更に死ねなくなった。心の中でそっと残念がる。
神との約束は絶対です、といつか役人に言われた言葉を思い出す。あれは、一体どんな時に言われたのか。それを思い出すのは少々億劫だ。

離れていく三日月の頬に手を伸ばす。すると三日月は不思議そうにしながらも手に擦り寄った。まるで猫のようだ。

「行ってくるね」
「……あ、あるじ、其方、今、笑っ、」

目に見える程動揺している三日月は放っておいてゲートをくぐる。
私が笑ったなんて目の錯覚だろう。心の底から笑う方法なんてとうに忘れたから。

体がぐにゃりと歪められる感覚に気持ち悪い、と呟きながらもその顔が微笑を浮かべていたことを手鞠は知らない。





手鞠に置いて行かれた三日月はゲートの前で放心していた。笑った顔なんて、初めて見たのだ。大切で、心から愛しいと思う存在の初めて見た笑顔の破壊力に三日月はぶわっ、と戦場でもないのに誉桜を咲かした。

笑顔というには少々歪かもしれない。だが目尻がほんの少し下がって口角があがっていれば、それはもう笑顔だ。

「………………あれは、すさまじいな……」

次は褥の中で見たい。誰に言うでもなく、三日月はそう呟いた。
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