08


鶯丸の手入れの為に母屋にある手入れ部屋へと向かう手鞠の後ろ姿をついて行きながら鶯丸はじっと見つめていた。

ギシギシと遠慮なく鳴らされる床板の音。不穏な空気が漂う母屋であっても臆することなく進む足取り。全てが、今までの審神者と違っていた。


「君は今までの審神者たちの誰とも違うな。彼らは母屋を歩くことなどなかった」
「違うって?当たり前のことを言わないでよ、鶯丸くん。同じ人間なんて存在しないことぐらい知ってるでしょう?君たちの方が詳しいと思ってたんだけど……そんなことないんだね」

振り向き、手鞠の青い瞳が鶯丸を射抜く。鶯丸は何も言えなくなった。手鞠から発せられた言葉は、すとんと何の抵抗もなく鶯丸の胸に落ちる。

ああ、そうだ。同じ人間など存在しないのが当たり前だ。

――――前任と全く同じ人間など存在しない。

鶯丸は今までやって来た審神者たちに暴力を振るったことはない。血気盛んな刀たちと共に斬りかかったこともない。
ただ、同じ人間というだけで憎悪を向けていた。彼らは何もしていないのに、だ。振って湧いた考えがじわじわと心を正気に戻していく。

「醜い人間っていうのはどこにでもいるからね、憎んでしまうのはわかるけど――――君が、君たちがしてきたことを君たちに合わせて言うと同じ刀派だから憎い、壊してやるっていう理不尽極まりないことだよ。
人がそれぞれ違うってことを思い出したんなら理解したんなら聞くけど、君たちは今までの子たちをしっかり見極めた上で前任と同じだって判断したのかな?」
「……いや、ろくに見ることなく同じだと判断したな。だが、今ならわかる。あの人の子らの魂は、優しい色をしていた」

何を恐れていたのだろうか。
――――人の子に再び裏切られることを?

何に溺れて何を見失っていたのだろうか。
――――憎悪に溺れて、人が恋しいという心を見失っていた。

彼らは我を失っている自分たちに怯え震えながらも、癒そうと尽力してくれていたのに。

『自分』を思い出し、鶯丸は己がやってしまったことに罪悪感を覚えた。
否、罪悪感では済まない程の後悔だ。思わず刀解を願い出そうになったがぐっと口を噤む。ここで刀解を申し出るのは逃げだと悟った。

「皆も早く気付けばいい」

手入れ部屋へ行く道中にある、隙間なく閉められている障子に向かってそう呟く。思い出せ、自分たちは何から生まれたのか。再び戦いの場へと向かうと決めたのは何故なのか。

人間を否定することは、人間から生まれた己のことを否定することに繋がり、そしてかつて自分たちを慈しみ振るってくれていた持ち主たちを否定することになると。
心の中でそっと呟き、手鞠の後ろに再び続く。その顔はとても晴れやかで傷つき痛みに悶えていたとは思えない程穏やかで。

去っていく鶯丸を障子の隙間からそっと覗き見るとある刀に気付かないフリをしながら、三日月は一人と一振りを追いかける。

「主の後ろは俺の特等席だ。鶯や、其方にはやらんぞ」
「やれやれ、天下五剣であろう刀が嫉妬か。大包平が見たらなんと言うか」
「実装されておらぬ刀になんと言われようと知らぬ。…………主の後ろは俺だと言っておるだろう!早う退かんか!!」


会話に入れずなんともいえない空気を味わっていた鬱憤を晴らすように、鶯丸にいちゃもんをつけながら、だが。
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