07


降谷たちを拒絶した日から卒業式まで千尋が二人と言葉を交わすことは無かった。悲しげな目で見つめられても、千尋と彼等の間に横たわった溝が埋まることはないだろう。

徹底的に二人の傍にいることを拒んでいると、いつの間にやら千尋の傍には誰もいなかったけれどそれを気にすることはない。
だって、千尋はもう友人よりも家族よりも大切な人達と出会うことが出来ているのだから。

卒業式当日。
別れを惜しみ合うクラスメイトたちやここぞとばかりに声をかけてくる男子たちを横目に千尋は校門へと向かう。

このあとの予定は決まっているのだ、無駄にしている時間はない。ちらちらと時計を確認しつつ、何の未練もなく校舎を去ろうとした千尋を呼び止める声が一つ。

「千尋!待ってくれ!!」
「…………」

無視しようと思っていたのに足がぴたりと止まるのは、声の主と過ごした時間が長いからだろう。
返事もせず振り返ると降谷と諸伏が息を荒らげてそこに立っていた。教室で女子たちに囲まれていたのを見掛けたが、追い掛ける為に女子たちを振り払ってきたのだろうか。

何も言わず、じっと見詰めていると意を決したように降谷が口を開いた。

「っ、俺たち!立派な警察官になってこの国を、千尋のことを守れるようになるから!だから……だから、待っていてくれ!!」
「…………これが最後だなんて、言わないでくれ…」
「………………」

降谷の真っ直ぐな声も諸伏の縋るような声にぐらりと心が揺れる。

これが出会った頃の二人なら、普通の幼馴染みであった彼等だったら、笑って「頑張ってね」と見送ることが出来ただろう。
けれどそれは「たられば」の話で、目の前にいる二人から向けられる感情はとうに歪んでぐちゃぐちゃになっていて元に戻ることはない。

「…………そう」

だから千尋は、肯定も否定もせず一つだけ頷いてその場から立ち去った。もう振り向くことはしない。









卒業前から纏めていた荷物を持って家を出る。

「無理はするなよ。何かあったらすぐ連絡しなさい」
「体には気を付けて!偶には帰ってきてね」
「うん、行ってきます」

両親には就職先の寮に入ると言ってある────伝えた会社名は嘘だが寮に入るのは事実だ。

優しい両親に嘘をつくのは、大好きな人達を紹介出来ないのは少しばかり心苦しかったが、幼馴染みたちに甘い両親から情報がいくのは避けたい。

一人娘ということで心配症な両親に笑って別れを告げ駅へと向かう。迎えがあると聞いているが一体誰が来てくれるのか楽しみでならない。
人混みの中で視線を彷徨わせ────視界の端で金糸が揺れた。

「久しぶりだね、一野辺くん」
「千尋!会いたかったわ!」
「はい、お久しぶりです」

嬉しそうに抱き着いてくる少女を受け止めながら、千尋は緩く口角を上げた。
穏やかな笑みを浮かべながら千尋と少女を見ているのは嘗ての上司である森鴎外である。森の後ろには中也が立っていて、呆れたように千尋を見ていた。

ああ、やっと帰ってきた。
なんだか酷く安心して肩から力が抜ける。

「さぁ行こうか。尾崎くんが今か今かと焦がれているからね」
「はい」

森の後ろをついて歩くと、自然な動作で中也に荷物を取られた。

「中也、私持てるよ」
「いいンだよ。今日くらい甘えとけ」

ぽすん、と頭を優しく撫でられる。今世も同い年だというのに年下扱いをするのかと少しばかり拗ねてしまうけれど、そのやり取りも懐かしい。

ばいばい。音も出さず呟いた言葉は幼馴染みたちに向けたものなのか、それとも。
















「うわ!この写真の子、めっちゃ可愛いじゃん!降谷の恋人?」
「そう、だな。俺とヒロの大切な人だ」



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -