19


「ふーー……」

溜め息を吐きながらセーフハウスのひとつであるマンションに帰宅する。トリプルフェイスというのも中々に疲れるが、これも日本の為であると思えば耐えられた。日本を守るということは即ち彼女を守ることに繋がるのだ。

「お疲れだな、ゼロ。おかえり」

玄関で出迎えてくれた諸伏の姿にほっと体から力を抜く。表向きは死んでいることになっている諸伏の安全を守る為同居を始めたのだが、出迎えてくれる人間がいるというのはとても嬉しい。此処に千尋もいてくれたらもっと幸せだろうな、なんて考えながら家の中へ入る。

「ただいま。あの女が言うアバズレ、千尋で間違いなかったよ」
「ふぅん……千尋のことをアバズレ呼ばわりか」
「そう怒るなよ。事が終われば処分すればいいんだから」

あの女。毛利探偵事務所に乗り込んできたあの女は、安室の予想通りあの男一一一一太宰治と繋がっていた。といっても女が一方的に言い寄っているだけのようだが。しかしそれを利用すれば千尋から引き離すことが出来る。その為にもあの女には頑張ってもらわなければ。

女の処分について考えながらラフな格好に着替え、そういえばと諸伏に問うた。

「ヒロの準備は終わったのか?」
「勿論!家の用意やら諸々の準備は終わったから、あとは組織を潰すだけだな!」

笑いながら言う諸伏に降谷も笑って頷く。組織の壊滅まで後もう一歩である。慎重に行動しなければと思うがどうしても心が弾む。

そうだ、指輪も用意しなければ。千尋にはどんなデザインのものが似合うだろうか。いや、何でも似合うと思うがやはり特別なものなのでとびきり似合うものを用意してやりたい。

子どもの頃のように諸伏と顔を見合わせてクツクツと笑い合う。

「待ち遠しいな」
「な。漸く夢が叶うんだ」

嗚呼その日が早く来たらいいのに。




「安室さん、最近機嫌いいですね」

ポアロでの勤務中、楽し気な顔をした梓にそう問われた。機嫌がいいとは。あまり感情が表に出ないように努めているのだが、そんなに判りやすかっただろうか。公安として気を付けなければと思いつつ梓に問う。

「え、そうですか?」
「そうですよぉ、緑川さんもソワソワしてるし!」
「……ふふふ。実は籍を入れようと思ってる人がいて」
「結婚するんですか!?おめでとうございます!」
「ありがとうございます」

ロ元に手を当てて驚いた様子の梓だったが、降谷の言葉に嬉しそうに破顔して祝いの言葉を口にした。それに素直にお礼を言って、キッチンの片付けを続ける。

まだ詳しい話をしていないが千尋も喜んで受け入れてくれるだろう。だって彼女は優しく天使のような人だ。以前会いに行った時は素っ気ない態度をとられたが、それはあの男の所為だろう。

太宰治。自分たちから千尋を奪っていった男。恐らく高校生の時から接触があり、何かしらおかしいことを吹き込まれたのだろう。だから千尋は突然降谷たちを拒絶するようになったのだと思う。でなければ優しい彼女をあんな酷いことをするなんて有り得ない。

思わず上がった口角を見て、梓が好奇心が隠しきれない笑みで口を開いた。

「彼女さんってどんな人なんですか?」
「とても優しい人ですよ。それでいて真っすぐで強くて……そんな彼女を支えたいなって」
「素敵ですねーっ!あーあ、私も恋したーい!」

明るく笑う梓にすぐに出来ますよ、なんて言いながら洗ったグラスを片付ける。溌剌とした性格の梓ならば素敵な男が現れることだろう。仲のいい同僚が幸せになる姿を想像すると胸の奥がじんわりと暖かくなってくる。
休憩に行く梓を見送っているとカウンターに座ってオレンジジュースを飲んでいたコナンが声を潜めながら話し掛けてきた。

「安室さん、安室さん。あれって本当?」
「酷いなぁ、本当だよ」

疑い深いコナンの視線に苦笑いを零す。君も見たことがあるよ、なんて言いたくなったが口を噤む。

降谷がそう言えばきっとコナンは千尋のことを探るだろう。それだけで彼女に危害が加えられることはないだろうが、諸伏と共に用意した家に迎えるまでは千尋の情報を漏らす訳にはいかない。

「その為にも掃除とか色々と頑張らないといけないな」

早く、早くと逸る気持ちが溢れそうだ。



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