etc短編 | ナノ
 ツイステ/フロイド/美しいひと

目が合った瞬間表情が削げ落ちたのを見てしまった。
どうやら今日の機嫌は最悪らしい。思わず零してしまった悲鳴は聞かれてはいないだろうか。

大股で近付いてくる巨体。一緒にいた友人たちはそそくさと立ち去っていく。裏切り者め!と罵ってしまいたいけれど、そんなことを叫ぶ余裕なんてなく。逃げ場がない私はその場に立ち尽くすことしか出来ない。

「なァ、それ、どうしたの」
「……へ」

表情の割には声はとても優しい。
あまりのギャップに、何かを問われたような気がしたけれどそれに答えることは出来ず首を傾げる。
すると、緩く開いていた口がきゅっと閉じられたものだからまた機嫌が悪くなってしまったのかと恐怖していると大きな手が伸びてきた。
殴られるのだろうか。それとも叩かれるのだろうか。どちらか判らないが痛いのは嫌だ。どうにか回避したい、と内心焦っていると伸ばされた手は私の顔ではなく髪に触れた。

「髪。短くなってんじゃん、誰にやられたの?」

そう言われ、思い出す。そうだ、今日魔法薬学の授業で薬品が暴発して髪が焦げたんだっけ。
背中の真ん中ほどまであった髪は今は肩までの長さになっている。適当に切り揃えただけなので、その毛先は酷いことになっているだろう。
放課後にでも綺麗にしたい、と意識を飛ばしていると「何で」とまた低い声が聞こえてきた。

「えぇっと、それはですね…色々ありまして……」
「あ?」
「魔法薬学の授業で失敗しました!!」

失敗した、だなんて天才肌の彼に言えば笑われると思い言葉を濁そうとしたが低い声で凄まれて正直に話す。
そろり、と遥か頭上にある顔を見上げると色違いの双眸が不機嫌そうにこちらを見ていた。くるり、くりると毛先を指で弄る。

「……小エビちゃんさぁ」
「は、はい」
「オレの恋人って自覚ある?ちゃんとしてくれねぇと困るんだけど」

折角綺麗な髪なのに。とまさかの人物に褒められたことに思考が一瞬フリーズする。
拗ねたような顔の彼に何か言わなければ、と考えて口から出たのは。

「……私と先輩って付き合ってましたっけ…?」

純粋な疑問だった。

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