▼ ツイステ/マレウス/迎えに来たぞ
ずきずき、ずきずき。痛みを訴える頭を無視して、今日も変わらない日々を送る。
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異世界へ行くだなんてまるで御伽噺のような体験をして一年。慌ただしかった生活は落ち着きを見せていた。
あの世界へ行っていた間はやはりというべきか行方不明扱いとなっていて、無事に此方の世界に帰って来た時は大騒ぎだった。
両親や友人たちはひとしきり怒った後「無事でよかった」と泣いてくれて。その涙を見るだけで帰ってよかったとつくづく思うのだ。
魔法、人魚、獣人に──妖精。
此方にはないもので溢れていた世界は本当に楽しくて夢のような生活だった。けれどいつまでもあの世界に縋っている訳にはいかない。
自分が生きる世界は此処なのだから。
「───…」
ふと誰かに呼ばれたような気がした。
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毎朝鏡の前で身嗜みを整える。
人一倍美を追求していたあの先輩に何度も注意されていたっけ、なんて蘇る記憶に懐かしさを抱く。
────いつか友人たちと別れた寂しさも薄れていくのだろうか。
あの世界での記憶を思い出す度に切なくなることも無くなるのだろうか。
きっと、それがいい。
鏡に向かって薄く微笑んでいると、鏡面が波のように揺れた。
「え、」
「僕はまだ、お前を想っているのに」
耳障りのいい声が聞こえてきたと思うと、鏡から茨が伸びてきた。同時にどろりと溢れていく黒いインクのような液体。
突然のことに驚きながらも此方へと伸びてくる茨から逃げようとしたが、何故だか体が動かない。
「此方へおいで。お前がいるべき場所は」
茨が迫ってくる。
体に茨が巻き付き、皮膚に鋭い棘が刺さり血が零れた。
「──僕の腕の中だろう?」
暗転。
────意識を失う瞬間目に映ったのは、見覚えのあるペリドットの双眸だった。
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