▼ ツイステ/アズール/帰り道にバイバイ
例えば私が明日死んでしまうとして。アズール先輩はどうしますか?
「………何を言っているんですか?」
突拍子もなく吐かれた言葉に、一瞬思考が停止した。動揺を悟られぬように平静を装いながら彼女を見れば、彼女はアズールが淹れた紅茶を飲みながら薄く笑みを浮かべていた。
「単純な興味本位です。もしも、明日私が死んでしまうとしたら、アズール先輩はどうしますか?」
先ほどと同じ問いをしてくる彼女に呆れたように溜息をついて、それからゆっくりと口を開いた。
「そんな仮定など聞きたくないですね。くだらない」
「え、酷い」
「………死なせませんよ。例え死だとしても、僕から勝手に離れていくのは許しません」
もしも。もしも彼女の身に理不尽な死が降り注ぐのならばそれらを全て退けてみせよう。もしも彼女が病に侵され命を落とすというのなら、持ちうる知識を全て注ぎ込みその命を救ってみせよう。
柔らかな手を取り、アズールには少し高い体温のそこにそっとキスを落とす。
「先輩、王子様みたいですね」
「おや。それをご所望でしたら王子にでもなりますが」
「大丈夫です。先輩は、先輩のままでいてください」
────そんな風に、子供の戯れのように言葉を交わしたのはつい先日のことだ。
「ユウ、さん?」
砕け散った鏡。一体何をしているのだ、それは彼女が元の世界に帰る為の唯一の道で。どうしてそれを、彼女は己で砕いている。
「先輩。私、この世界にいる限り少しずつ寿命が縮んでいくそうなんです」
此方を振り向きもせず彼女が言う。一体彼女はどんな顔をしているのだろうか。それはアズールから見ることはできないけれど──屹度、泣きそうな顔をしているのだろう。
慰めようと一歩近づいた時彼女の口から零れた言葉に足を止める。今、彼女はなんと言った?
「普通よりも、ずっとずっと早く、死んじゃうそうです」
「……は、……………なら、どうして自ら帰り道を断つようなことを……!!」
彼女が振り向く。割れた鏡の欠片がキラキラと輝き、彼女の顔が見えにくい。
「だって、私、あなたと生きていたい」
けれども彼女が泣いていることだけは判った。止めてしまった足を動かし彼女の傍へと近づく。そうして、僅かに震えている彼女の体を力一杯抱き締めた。
「僕も、あなたと生きていたい」
明日貴女が死んでしまうとしても。
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