▼ 中也/おやすみなさい、ゆっくりと
眠れなくて、布団の中でぼんやりと天井を見つめる。ごそごそと体勢を変えても何だかモヤモヤして、眠れない。
近くで寝ている仲間に倣って目を閉じてみるけれど一向に睡魔はやって来ず、散歩でもしようかと寝床を抜け出した。
「こんな時間に何してンだよ」
囁くような声に咎められ、外に行こうとしてた足を止める。
じろり、と青い瞳に睨まれて言葉に詰まる。正直に言ってもいいものだろうか。なんて言うべきかと悩んでいると言え、と詰め寄られ諦めて話すことにした。
眠れないので散歩にでも行こうかと。
そう告げると彼は呆れたように溜息をついた。
「何があるか判らねェんだ、一人で出歩こうとすんな。女だろ」
突然の女扱いに目を瞬かせていると、大股で近付いてきた彼に腕を掴まれ引っ張られた。
そのまま彼の寝床に連れて行かれ、少し硬い布団に放り投げられる。何をするんだ、と抗議すると彼は悪戯を思いついた子供のような顔でにやりと笑った。
「寝れねェんだろ?なら寝かしつけてやるよ」
別にそんなのいらない、子供扱いをするな。そう言葉を重ねても腕を掴む手は離れない。
「チビたちが起きちまうぞ」
年下の子供たちを出され口を噤む。確かに騒げば起こしてしまう可能性がある、それは避けたい。
シーツを掛けられ、優しく頭を撫でられる。じんわりと伝わってくる体温にゆるりと睡魔がやって来た。先程まで眠れなかったとは思えないほとだ。
「おやすみ」
優しい声が上から降ってきて、そっと意識を手放した。
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