▼ 君愛/あつい日
どん、と背中に感じる衝撃。
「っ、」
ヨコハマの街を歩いている最中、突然腕を引かれて路地裏に通れ込まれた。抵抗せずに壁際に背中を預けているのは鼻先を擽る嗅ぎ慣れた匂いの所為だ。僅かな痛みを感じつつ見上げると表情を削ぎ落とした太宰が此方を見下ろしている。
「どうしたの、治くん」
「どうしたって?君がそれを云うのかい?」
鼻で笑う太宰。どうやらかなり機嫌が悪いらしい。とはいえ苛立っている理由はわからない千尋は首を傾げることしかできないのだが。
「他の男に見せる心算か知らないけど、露出多すぎるでしょ。隠してよ」
「そうかな」
「そうだよ。普段はそんな格好してないのに」
なるほど。不貞腐れた太宰の言動からするに、今の格好が気に入らないらしい。今日は暑かったので少しばかり着崩していたのだが、たまたまそれを目撃したらしい太宰には地雷だったらしい。
「だって暑い……」
「暑いからってそこまで着崩さなくてもいいだろ。それとも何?他の男に見せて興奮してるの?」
するりと太腿を撫でる大きな掌に思わず息をつめる。明確な下心を持って触れてくる掌に自然と息もあがっていく。
外なのに。少し行った先には人通りがあるのに。
じくじくと腹の底に溜まっていく、外気による暑さとは違う熱。肌が出ていることが気に入らないというのなら、と千尋はシャツの釦を更に幾つか外す。生温い風が当たった胸元が気持ちいい。
「見せられないように、してくれる?」
「…………、どうしてこんなにえっちに育ったんだろうね」
はぁ、と息を零す姿に小さく笑う。
どうしてってこんな風にしたのは太宰自身だろうに。胸元に顔を埋める太宰に「あ、」と零れた声は空気に溶けて消えた。
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