▼ それを贈る意味
装飾品を見るのが好きだ。宝飾店のショウウィンドウに並べられているような高価なものではなく、どこにでもあるような雑貨屋の店先で売られているものだとかそういうものを見ると「羊」であった頃をなんとなく思い出す。
はじめてピアスを開けたのはいつだっけ。寝起きの頭でぼんやりとそんなことを考えながら、今日つけていくピアスを選ぼうとそれらを収めている箱を開けて────千尋は首を傾げる。
「なにこれ……」
少々乱雑に置かれた幾つかのピアスの上に、これまた雑に置かれている知らないピアス。
しかしそれは透明な袋に包まれたそれは明らかに新品だとわかる。とはいえ買った覚えはなく千尋は首を傾げた。
普段千尋が買うような、少しばかり無骨なデザインとは違うそれは黄色の薔薇をモチーフにしているのか、とても可愛らしい。
誰かがここに忍ばしたのだろうか。否、忍ばすにしても意味がない。盗るのではなく仕込むとは。だがもしかすると記憶にないだけで自分が買ったものかもしれない。
袋から取り出してピアスをまじまじと見つめる。盗聴器や発信器が仕込まれているような様子はない。
「……まァいっか」
害がないのなら使っても問題はないだろう。千尋はそのままそれを耳につけた。
□
「あ」
仕事の最中、太宰がそう声を漏らしたのは丁度千尋が髪を耳にかけた時だった。
机の上に散らばる書類で紙飛行機にして飛ばす、なんて現実逃避じみたことをしていた太宰が自分を見つめている。穴が開いてしまうのでは、と思ってしまいそうな視線にたじろぎながらも千尋は何でもない風を装って口を開く。
「どうかした?」
「…………ピアス。新しいの買ったの?」
「買った覚えはないんだけど、なんかあった」
「どうかと思うよ、それ。ちょっとは警戒心持ったら?」
記憶にないピアスを使っていることに呆れたのか、太宰が溜息をつく。が、なにか言いたげにちらちらと此方を見てくるので千尋は首を傾げる。
紙飛行機を作る手も止まっているようだし、本気で呆れられたのかもしれない。答えを間違えたかもしれない、と内心落ち込みつつ太宰が口を開くのを待っていると────爆弾が落とされた。
「……いいんじゃない、それ」
「え」
「似合ってると思うよ」
ぶっきらぼうに、目を逸らしながら言われた言葉。しかし内容は似合っていると褒めてくれるもので。
まさか太宰がそんなことを言うなんて思ってもいなかったので暫し言葉を忘れてしまう。二人の間に漂う沈黙に何を思ったのか、太宰は黙り込んだまま執務室を出ていってしまった。
嗚呼しまった、折角褒めてくれたのだから礼のひとつでも言えばよかった。後悔に苛まれるが、千尋の口から零れたのは懺悔でも悲痛でもなく、だらしのないもの。
「…………えへへへ」
好きなひとに褒められて嫌だと思うことがあるのだろうか。普段素っ気ない太宰に褒めてもらえるなんて、幼子のようにはしゃいでしまいそうなほど嬉しい。
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