文スト 短編 | ナノ
 君愛/君に死ねと言わねばならぬ

「うーん……。これは面倒なことになったねェ」

延々と続く道に思わずそうぼやく。
────最近巷で噂になっている、「異変を探す道」の調査に来た太宰だがあまりの面倒臭さに溜息をついてしまう。

異変を探せ、異変を見つけたならば引き返せ。それを繰り返せば出口に辿り着けるらしいのだが未だ出口には辿り着いていないということは起こっている異変を見落としているのだろう。

隅々まで見たというのに異変とやらはどこにも見当たらない。このままずっと此処を彷徨うのも面倒なので、さっさと帰りたいのだが。はァ、ともう一度溜息をつくと隣に立っていた千尋がぽつりと呟く。

「出口、ないね」
「結構調べた心算なのだけど……まだ足りないとは。此処を作った人間は余程暇人らしい」

どういう目的で此処を作り上げたのかは知らないが、相当暇だったか悪趣味なのか、それともそのどちらともなのか。そこまで考えて、これ以上くだらないことに思考を割くのは面倒だと考えることを放棄する。

そんなことをつらつらと考えるくらいならば、どこに異変が潜んでいるのか考えた方がいい。

此処に閉じ込められて負傷したやら死亡したやら不穏な話は聞かないし疲労も空腹感もないとはいえ、同じ景色を延々と見せつけられると精神的にもよろしくないだろう。発狂して自殺だなんて冗談じゃない。

さっさと探そうと千尋の手を引いて歩き出す。

「まァさっさと見つけて早く帰ろう。今日の夕餉は蟹鍋がいいなァ」
「治くん」
「ん?何か気が付いたことでもあるかい?」
「もう、気が付いてるくせに」
「…………」

……嗚呼、矢張り此処を作った人間は相当な悪趣味らしい。

静かな声に何も答えず振り返る。太宰の後ろに立っていた彼女は、十八の頃から変わらない姿で立っていた。

諦めたような顔で小さく口角をあげた千尋が今にも消えてしまいそうで、思わず握っていた手に力をこめる。が、それは何故だかするりと解けてしまいてのひらにあった体温が離れていく。

たらり。彼女の額から赤い液体が垂れる。徐々にぐちゃぐちゃになっていく千尋。

嗚呼駄目だ、いかないで。君の死に目にあえていないのに、君の死んだ姿など見せないで。そんな太宰の思いなど虚しく、顔が半分潰れた彼女が変わらない穏やかな声で言う。

「千尋、」
「ねぇ、治くん。いかないで戻ってよ、おねがい」

離れた手を追うことは、出来なかった。

君にもう一度死ねと、言わねばならないなんて。

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